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Last Chapter
土下座で愛の言葉を叫んでます ⑥
しおりを挟む「……おまえらの世代で、あのじいさんのDNAを一番色濃く受け継いでそうなのは、上條だな」
将吾が低い声でつぶやいた。
「ヤツはきっと水島より先に、あさひ証券の社長になるな。あの歳で経営企画本部長になるんだ。なにかやりたいことがあるんだろう。そして、それが終われば、後継に水島を指名するんじゃないかな?」
腕を組んで預言者のように告げる。
「彩乃、そしたらヤツをあさひフィナンシャルへ引っ張ってきて、おまえの弟の裕太がそれなりになるまで社長をさせろ。そして、裕太が社長になったら、会長にして後見役にするんだ」
確かに、わたしたちよりずっと若い裕太なのに、背負わなければならないのは「本丸」である持株会社だ。
気心の知れた大地が「後見」してくれるとありがたい。
「もちろん、TOMITAホールディングスとしては閨閥になるわけだから、裕太のことは全面的にバックアップさせてもらうがな」
——まぁ、それがわたしと将吾との結婚の本来の目的なんだけれど。
「上條があのじいさんみたいにならないように『親戚一同』で気をつけないとな」
「松濤のおじいさまを手のひらで転がせるくらいの亜湖さんがついてるから、大丈夫よ」
わたしは、ふふっ、と笑った。
——どうやら、わたしもようやく「朝比奈の娘」として一族に貢献できそうだ。
「……あっ」
突然、将吾が腕を伸ばして指を差す。
「There’s a Japanese doll....」
〈日本人形がある…〉
そこには、ガラスケースに入った市松人形が飾られていた。
「亜湖ちゃんに似てるでしょう?……本当は、若い頃に主人がわたくしをモデルにして作らせたものなんだけれど」
松濤のおばあさまがふっくらと笑った。
「あのときの『Japanese doll』は……上條の奥さんだったんだな」
将吾は思い出せなかったことをやっと思い出したときの、すっきりした表情をしていた。
「『あのとき』の、って?」
わたしは犬の目で尋ねる。
「たった一度だけ、おまえんちのNew year’s party に行ったことがある。……十歳くらいのガキの頃だったな」
——亜湖さんが来たのは、たった一回だけだ。
わたしが小学校の三年生のときである。
「……ねぇ、子どもの頃って、今よりも地毛の色が薄かった?」
わたしはちょっと、声が震えてるかもしれない。
「あぁ、今はカフェ・オ・レみたいな色だけど、昔はミルクティくらいの色だったな」
将吾は表情をまったく変えずにしれっと言った。
「だから、でっけぇシャンデリアの光のせいで……金髪に見えたかもしれねえな」
「あとは、わたくしがうまくやっておきますからもうお帰りなさい。今日はいいお天気ですもの。これから、デートにでもお出かけしなさいな」
松濤のおばあさまがそう言ってくだすった。
「香子おばあちゃま、どうもありがとう。おじいちゃまに、よろしくお願いします。……来月の結婚式、お待ちしてます」
わたしは丁寧にお辞儀した。将吾もわたしに倣って頭を下げる。
「えぇ、主人ともども、楽しみにしてますよ」
「……将吾、どうしたのよ、立ちなさいよ」
わたしは一向に立ち上がろうとしない彼を、横目で訝しげに見た。
「彩乃、おまえこそ、早く立てよ」
将吾がぎろり、とわたしを睨む。
そして、わたしたちは同時に叫んだ。
「足が痺れて立てないのよっ!」
「足が痺れて立てねえんだよっ!」
松濤のおばあさまの、ほほほ…という笑い声が、広いお座敷に響いた。
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