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Last Chapter
土下座で愛の言葉を叫んでます ①
しおりを挟む電話を切ったわたしは、がたがた震えていた。
「彩乃、電話はなんだったんだ?」
震えるわたしをベッドの中に促して、将吾はやさしく抱きしめてくれた。
「……ごめんなさい。やっぱりわたし……とんでもないことしちゃってた……」
将吾の胸に頬を寄せる。もうすっかり慣れ親しんだ、彼のボディーソープの匂いがする。
「松濤のおじいさま……うちの一族のドンみたいな人なんだけど……わたしが海洋と尾山台にいたのがバレちゃって……そしたら、嫁入り前の娘がほかの男と一緒に暮らしてたなんて、将吾のおうちに申し訳ないって言い出して、この結婚はなかったことにする、って……」
「……はぁ!?」
将吾の顔が素っ頓狂になる。
「うちは別になにも言ってないぞ。むしろ、彩乃のことを気に入っていて大歓迎だ」
「それだけじゃないの。……『キズモノ』になったわたしを、海洋と結婚させるって」
胸が張り裂けそうな思いが込み上げてきて、将吾にしがみついた。
「大丈夫だ、彩乃。おれがおまえを朝比奈 海洋に渡すはずないだろ?むしろ……おれの方がずっとおまえをキズモノにしてるじゃないか」
そう言ってニヤッ、と笑う。
「それに、おまえの祖父さんが一族の長じゃないか。あさひフィナンシャルの持株会社の会長なんだから」
将吾は不安を拭い去らせるように、わたしを抱きしめる腕にぎゅーっと力を込めた。
わたしは首を振った。
「確かに松濤のおじいさまは、うちのおじいさまの弟なんだけど……ただ声が大きくて態度がデカいだけなんだけど……なぜか朝比奈の中じゃ一番エラそうにしてるの……」
将吾は鼻で笑った。
「大丈夫だ、心配すんな、彩乃。……で、そのじいさん、なんていう名前だ?」
「……朝比奈 龍藏」
その名を聞いて、将吾の顔つきがガラッと変わった。
「そうか……あさひ証券の会長か……」
眉間にシワが寄り、掠れた声になる。
わたしの大叔父である、あさひ証券の朝比奈会長といえば、経済界のドンと呼ばれ、政治家との繋がりも多く「政財界の黒幕」と思われている。
バブル崩壊直後、大手と中堅の証券会社で一斉に、大口顧客への違法な損失補填が発覚した。
連日新聞を賑わす大騒動になり、国会でも採り上げられ、経営幹部は招致されることになった。
もちろんあさひ証券からも、当時の社長であった彼が参考人招致された。あさひ証券創業以来の大ピンチである。
だが、全国にテレビ中継された国会の場であっても、彼はしれっと「記憶にありません」を繰り返し、難なく切り抜けた。
そして、その後「責任」をとって会長の座に退き、社長の座を長女の婿である水島のおじさま(慶人の父親)に譲った。
だが、決して「代表取締役」は譲らなかった。
だから、齢八十を越えた今も、彼の肩書きは——「あさひ証券株式会社 代表取締役会長」である。
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