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Chapter 17
雨降って、地固まってます ⑧
しおりを挟むやっぱり、こんなときにほかの男の人の話をするんじゃなかった。
「しょ…将吾、ごめんなさい……わたし、そういうつもりじゃ……」
わたしの謝罪を将吾が遮る。
「……ったく……とんでもない爆弾ぶち込みやがって」
先刻とは逆に、目を細めて苦しげにつぶやく。
「だから、ごめんなさいって……」
——まずい、相当、怒ってる。
「おれの方が『お仕置き』の『罰ゲーム』じゃねえかっ!そんなことも知らず……おまえの感じてる顔も、イッた顔も、見ないで抱いたなんて……」
そして、わたしの両手首を持って、左右にがっ、と開いたかと思うと……とんでもないキスが急降下してきた。
わたしのすべてを、喰らい尽くそうとしてるんじゃないか、というくらいの激しいくちづけで襲ってくる。口での息が完全に封じ込まれる。
「んっ!……ぅんっ!?」
角度を変えて息を吸おうとしても、将吾のくちびるが、舌が、わたしを決して放すまい、と追ってきて……それをさせてくれない。
キスをしない「お仕置き」の「お仕置き」が、この息もさせないくらいの激しいキス?
——ワケわかんないっ!
意識がなんだか、ぼぉっとしてきたときに、やっとくちびるが離れた。
「……鼻で息吸え、バカ」
将吾がくくっ、と笑った。
「おれのこと、忘れんなよ……ちゃんと覚えとけよ」
そう言ってベッドの上でわたしを見下ろす将吾の眼は、捕らえた獲物を決して放さない、獰猛な肉食獣そのものだった。
なのに……それとはまるで逆の、まるで陽だまりのような、やさしくてやわらかな目にも見えた。
——なに言ってんだろ?
忘れるわけないじゃん。こんなに好きなのに。わたしたち……結婚するのに。
そうだ。わたしたちは結婚するのに……
わたしはこんなに将吾のことが、好きで、愛してるのに……
将吾は一度も、言ってくれない。
外苑前のこのマンションで二人きりで過ごす夜は、とても激しくて、夜明けまで寝かせてくれそうにもなく、わたしを抱き潰すまで放してくれそうにもないのに……
——なのに……
将吾は一度だってわたしを「好き」だとも「愛してる」だとも、言ってくれない。
だから、わたしが、どれだけそう思っていても、どれだけ口にしたくなっても……
——将吾になんか、絶対に言うもんか。
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