政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 17

雨降って、地固まってます ⑤

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「……キスまでは、いい感じだったのに」

 くちびるを離した海洋がぽつり、と言った。

「そのあとは……気が乗らないみたいだったからな」

 ——バレてたか。

 将吾とは「そのあと」から、ヤバいくらいどんどん加速していくんだけどね。

「あいつとは……できたんだな?」

 わたしは、こくり、と肯いた。

 ——それが、すべての「答え」だった。


 たぶん、今の海洋なら……そして、今のわたしなら……

 オトナになって、お互いに、相手をきちんとケアできるようになった、今だもの……

 あの夜、あのまま続ければ、海洋はしっかりとわたしに欲情し、わたしはしっかりとこのカラダに受け入れていたことだろう。

 だけど……今のわたしは、もう海洋にはカラダを開けなかった。

 今のわたしは、もう将吾しかカラダを開く気になれなかった。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 わたしは使っていたゲストルームに入った。

 海洋は部屋には入って来なかった。

 ハン◯プラスの赤いスーツケースを開けて、残していた衣類を詰めていく。
 手早くすべてのパッキングを終えたわたしは、部屋を出た。


 廊下の奥に、海洋が腕を組んで立っていた。

 彼の顔を見たら、やっぱり「哀しい涙」が込み上げてきた。

 ——海洋……さよなら……

 だけど、がんばって彼の方を見て微笑んだ。
 だって、わたしはこれから「うれしい涙」しか流せない人と一緒に人生を歩んでいくのだから。

 ——ありがとう……海洋……

 お互いの「初めて」をいっぱい共有した人。

 心が百パーセント満たされるほど海洋を愛したことに、後悔はひとかけらもない。

 わたしは、ドアを開けた。
 すぐ向こうに、将吾がいる。

 ——最期に、一度だけ、振り返った。


 海洋が、ふっ、と笑った。

 その漆黒の瞳は、ブリザードなくらい冷たい色を湛たたえていた。
 そして、虚ろで、寂しげにも見えた。

 また、その微笑みは……

 とっても、哀しげでもあった。
 とっても、切なげでもあった。

 だけど、なぜか……

 ——とっても、やさしそうな微笑みだった。

 わたしは、ドアを閉めた。

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