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Chapter 17
雨降って、地固まってます ②
しおりを挟む——ない、のだ。わかばちゃんの「自爆テロ」の「犯行現場」が……
ベッドがあったそこだけが、すっぽりと「空間」になっている。
「もう使いたくもないし、見たくもないだろ?」
将吾は得意げだ。ものすごーく「良いこと」をしたと思っている。
「ちょ…ちょっと、わたしはどこで寝ればいいのよ?」
すると、将吾はわたしを引っ張って、隣の部屋への扉を開けて入っていく。
そこで、またしても、わたしは目を見張った。
今度は、ベッドがあった。
が、しかし……今までにあったクィーンサイズのものではなく、キングサイズがどーんと鎮座していた。
——これって、外苑前のマンションにあったベッドと同じよね?
どうやら、「犯行現場」を「証拠隠滅」するついでに、新しいベッドを二台購入したもようだ。
「前のヤツはちゃんと地球のことを考えて、リサイクルに出したからな。ゴミにはしてないぞ」
将吾はそう言って胸を張った。
「……彩乃、早く来い。もう我慢できない」
将吾がわたしの腰を引き寄せ、ベッドへと促す。
彼の瞳が、カフェ・オ・レ色から琥珀色に変わっていた。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
深夜にテンパってそこら中に連絡しまくった海洋のおかげで——出奔したわたしが悪いんだけど——親友の華絵や親戚連中にまで、今回の騒動が知れてしまった。
L◯NEで通話した華絵は、まだ将吾を見たことがないので、
『だから、言わんこっちゃない。やっぱ海洋が忘れられなかったんじゃないの』
と、ぼやいた。
「いやいやいや、今回のことで実は将吾が好きだったって、イヤってほどわかったからさ。……絶対に将吾と結婚するっ!」
わたしはスマホの向こうの華絵に、一生懸命、説明した。
なので、最終的には、
『……彩乃がそこまで言うのなら、それが正解なのよ』
と、言ってくれた。
慶人と蓉子の結婚式で、わたしと将吾を見ている親戚連中は、LINEグループで以下のような見解だった。
彩乃【ぺこり】
彩乃:お騒がせしてごめんなさい
彩乃:予定通り四月末に将吾と結婚します
彩乃:今とっても幸せです
彩乃:結婚式に来てねm(_ _)m
裕太:姉貴が迷惑かけてすいませんm(_ _)m
裕太:将吾さんが今日もうちに来ました
裕太:恋人つなぎして二人はラブラブです
裕太【ヽ(*´з)(ε`*)ノ】
彩乃【ぷんすか!】
彩乃:裕太殺す(怒)
蓉子【おめでとう!】
蓉子:姉弟ゲンカやめな?
蓉子:海洋ったら
蓉子:あんな時間に電話をかけてきて
蓉子:何事かと思ったわよ?
慶人:アメリカへ行ったっきり八年も彩乃を放置してたのはさすがにマズかったね
大地:放置プレイ失敗
慶人:おまえは中坊か?
亜湖【おめでとう!】
亜湖:蓉子たちの結婚式でラブラブだったのを
亜湖:見てなかったのかな?
大地:海洋遅すぎ。今さら邪魔すんなって
太陽:あいつ昔から空気読めねぇんだよなー
「既読7」なので、全員読んでるはずなのだが……海洋は既読スルーだ。
わたしは蓉子と亜湖さんに向けて【ありがとう!】のスタンプを送信した。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
不本意ながら、わかばちゃんとも話をしなければならなかった。
将吾と島村さんが接待で遅くなる夜に、わたしはわかばちゃんをダイニングルームに呼び出した。
開口一番、
「……あたし、謝りませんから」
わかばちゃんは思いつめた顔で告げた。
わたしになにを言われるだろうかと、緊張していたのであろう。ともすると、震えそうになっているくちびるには、色がない。
彼女の首元に輝く、将吾からの誕生日プレゼントであるクロスのネックレスが、唯一の心の拠りどころに違いない。
「わたしは、別に、あなたに謝ってもらおうと思ってここに呼んだんじゃないのよ」
できるだけ、穏やかに言う。
「ただ、将吾の『立場』を理解して行動してもらいたいだけなの」
将吾、と彼の名を呼び捨てにした瞬間、彼女の顔が強張った。
「将吾とわたしの結婚披露宴の招待状が発送されたの。これでもう……後戻りはできなくなったわ」
わかばちゃんの、膝の上に置かれた拳に力がこもる。
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