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Chapter 16
ココロまで正直になってます ⑥
しおりを挟む「……腹へったな」
そういえば、お昼がまだだった。っていうか……
「ねぇ……ここ、どこ?」
将吾がやっと気になったか、というふうに、にやりと笑った。
「おれたちの新居」
——新居!?
「実家で同居するんじゃないの?……あっ、もしかして、わたしがご両親との同居がイヤで家を出た、ってことになってる!?」
わたしが目を丸くして詰め寄ると、
「まさか。正確に言うと、おれたちの『セカンドハウス』だな」
将吾がそう言って、わたしの顳顬に、ちゅっ、とキスをした。
「もともと、おれが買って持っていたものだが、週末はおまえとここで過ごそうと思ってさ」
——なんで?
わたしが犬の目で尋ねると……
「週末の朝くらい、おまえとベッドの中でずーっと楽しみたいのに、朝八時から無理矢理メシを食わされてたまるか」
将吾はわたしのくちびるを、ちゅっ、ちゅっ、とまたついばみ始めた。
「お腹すいたんじゃなかったの?なに食べる?」
なんだか、このままでいると、昼食抜きで夕食までお預けになりそうなので、気を逸らせるためにも訊いてみた。
「豚の生姜焼き。濃いめの味のやつ。おまえの弁当の定番っていうやつを、食いたい」
間髪入れず、返ってくる。
「夫になるおれに、おまえはまだ一度も、手料理を食べさせてねえだろ?……弁当だって、結局、一度もつくってくれねえし」
完全に、拗ねた口調だった。
「……バレンタインのチョコもなかったしな」
わかばちゃんとの「デート」を目撃して以来、わたしにとっては「しなくてもよいこと」になっていた。
——もしかして、この人、かなり、めんどくさい人かもしれない。
「ま、おれの方だっておまえのために、Conversation Heartsも真っ赤な薔薇も用意しなかったけどな」
そうよっ。将吾が生まれ育ったアメリカでは、男の人の方が張りきるもんなんじゃないのっ⁉︎
「まさか……わかばちゃんには用意したんじゃないでしょうね!?」
すると、将吾の目が一瞬見開いたかと思うと、すーっと細くなった。
「するわきゃねえだろ。……バカ」
きゅっ、と抱きしめられたかと思うと、将吾の額がこつん、とわたしの額に落ちてきた。
「来年からはおまえだけのために、すんげぇのを用意するからさ。……楽しみにしておけよ」
「……ねぇ、ここって、バスタオルどころかタオル一つないんでしょ?フライパンもないんじゃないの?どうやって料理するのよ?」
すると、将吾が甘い声でこともなげに言う。
「あとで、買いに行けばいい。今夜から週明けまで、ここで泊まるから」
——はぁ!?
「彩乃、覚悟しろよ。今夜は、朝まで、おまえを抱くからな。朝までおまえを、絶対に寝かさねえからな」
まだ真っ昼間なのに、なに言ってるの!?
「今夜から週明けまでって……まさか、会社に着ていくスーツも買いに行くの?」
「ここは南青山の会社の近くだ。会社のおれのプライベートルームには着替えがある。確か、おまえのスーツもあったよな?」
クリスマスに、会社帰りに婚約指輪を取りにブシ◯ロンへ行くのにワンピに着替えたため、脱いだスーツはシワにならないようにと、プライベートルームのワードローブにしまったのだった。
構うことなく、将吾のくちびるが……舌が……わたしの首元から鎖骨にかけて滑り落ちていく。
大きな手のひらはすでに、わたしの両方のおっぱいをすっぽりと包み、それぞれの親指が一番敏感な乳首をころころ…と刺激している。
「わたし……昨夜、あなたのお母さま……マイヤさんに……あなたとはダメになったって……言っちゃったんだけど……?」
このままいくと、将吾の術中に完全にハマってしまうわたしは、苦しまぎれに言った。
——が、しかし。
そんなことか、と鼻で笑われてしまう。
そして……
「おまえ、覚えてないのか?」
わたしの鎖骨のさらに下へくちびるを……わたしのおっぱいからさらに下へ手のひらを……這わそうとしていた将吾が、わたしを見上げる。
「おれが前に『この先、あんたがおれのなにを見たって、絶対に婚約破棄させねえからな』って、言ったこと」
それは確か、将吾と「大橋」さんが抱き合ってるのを見たときだった。
「少し、変えるぞ」
——なんだかあのときが、ずいぶんと昔のことのような気がする。
「……この先、おまえがおれのなにを見たって、絶対に離婚させねえからな」
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