政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
108 / 128
Chapter 16

ココロまで正直になってます ⑥

しおりを挟む

「……腹へったな」

 そういえば、お昼がまだだった。っていうか……

「ねぇ……ここ、どこ?」

 将吾がやっと気になったか、というふうに、にやりと笑った。

「おれたちの新居」

 ——新居!?

「実家で同居するんじゃないの?……あっ、もしかして、わたしがご両親との同居がイヤで家を出た、ってことになってる!?」

 わたしが目を丸くして詰め寄ると、

「まさか。正確に言うと、おれたちの『セカンドハウス』だな」

 将吾がそう言って、わたしの顳顬こめかみに、ちゅっ、とキスをした。

「もともと、おれが買って持っていたものだが、週末はおまえとここで過ごそうと思ってさ」

 ——なんで?

   わたしが犬の目で尋ねると……

「週末の朝くらい、おまえとベッドの中でずーっと楽しみたいのに、朝八時から無理矢理メシを食わされてたまるか」

 将吾はわたしのくちびるを、ちゅっ、ちゅっ、とまたついばみ始めた。

「お腹すいたんじゃなかったの?なに食べる?」

 なんだか、このままでいると、昼食抜きで夕食までお預けになりそうなので、気を逸らせるためにも訊いてみた。

「豚の生姜焼き。濃いめの味のやつ。おまえの弁当の定番っていうやつを、食いたい」

 間髪入れず、返ってくる。

「夫になるおれに、おまえはまだ一度も、手料理を食べさせてねえだろ?……弁当だって、結局、一度もつくってくれねえし」

 完全に、拗ねた口調だった。

「……バレンタインのチョコもなかったしな」

 わかばちゃんとの「デート」を目撃して以来、わたしにとっては「しなくてもよいこと」になっていた。

 ——もしかして、この人、かなり、めんどくさい人かもしれない。


「ま、おれの方だっておまえのために、Conversation Heartsも真っ赤な薔薇も用意しなかったけどな」

 そうよっ。将吾が生まれ育ったアメリカでは、男の人の方が張りきるもんなんじゃないのっ⁉︎

「まさか……わかばちゃんには用意したんじゃないでしょうね!?」

 すると、将吾の目が一瞬見開いたかと思うと、すーっと細くなった。

「するわきゃねえだろ。……バカ」

 きゅっ、と抱きしめられたかと思うと、将吾の額がこつん、とわたしの額に落ちてきた。

「来年からはおまえだけのために、すんげぇのを用意するからさ。……楽しみにしておけよ」


「……ねぇ、ここって、バスタオルどころかタオル一つないんでしょ?フライパンもないんじゃないの?どうやって料理するのよ?」

 すると、将吾が甘い声でこともなげに言う。

「あとで、買いに行けばいい。今夜から週明けまで、ここで泊まるから」

 ——はぁ!?

「彩乃、覚悟しろよ。今夜は、朝まで、おまえを抱くからな。朝までおまえを、絶対に寝かさねえからな」

 まだ真っ昼間なのに、なに言ってるの!?

「今夜から週明けまでって……まさか、会社に着ていくスーツも買いに行くの?」

「ここは南青山の会社の近くだ。会社のおれのプライベートルームには着替えがある。確か、おまえのスーツもあったよな?」

 クリスマスに、会社帰りに婚約指輪を取りにブシ◯ロンへ行くのにワンピに着替えたため、脱いだスーツはシワにならないようにと、プライベートルームのワードローブにしまったのだった。

 構うことなく、将吾のくちびるが……舌が……わたしの首元から鎖骨にかけて滑り落ちていく。

 大きな手のひらはすでに、わたしの両方のおっぱいをすっぽりと包み、それぞれの親指が一番敏感な乳首をころころ…と刺激している。

「わたし……昨夜、あなたのお母さま……マイヤさんに……あなたとはダメになったって……言っちゃったんだけど……?」

 このままいくと、将吾の術中に完全にハマってしまうわたしは、苦しまぎれに言った。

 ——が、しかし。

 そんなことか、と鼻で笑われてしまう。

 そして……

「おまえ、覚えてないのか?」

 わたしの鎖骨のさらに下へくちびるを……わたしのおっぱいからさらに下へ手のひらを……這わそうとしていた将吾が、わたしを見上げる。

「おれが前に『この先、あんたがおれのなにを見たって、絶対に婚約破棄させねえからな』って、言ったこと」

 それは確か、将吾と「大橋」さんが抱き合ってるのを見たときだった。

「少し、変えるぞ」

 ——なんだかあのときが、ずいぶんと昔のことのような気がする。

「……この先、おまえがおれのなにを見たって、絶対に離婚させねえからな」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

処理中です...