政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 15

心よりカラダが正直になってます ⑥

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「わたし、チクッてないわよっ!」
 誓子さんが目の前で手を振りながら、あわてて言う。

 ——それは、わかっている。

   だって、明け方まで一緒にオー◯ス・ワンを呑んで「ビバ」ってたんですもの。

「早く、行きなさいよっ」
 誓子さんが急かす。
「だ…だってぇ……」
 わたしはじりじりと後ずさる。

「あなたエラそうに、会社で謙二さんに会いに行くのを渋るわたしを羽交い締めにして、引きずるように連れて行ったじゃないっ。『だったら、直接本人に聞きましょうっ!……さあっ!!』って」

 ——うっ、復讐、ですか?

   わたしはあなたにとって、ものすごーくいいことをしたと思うんですけれども……

「彩乃だって、副社長とは一度きちんと話さないと、って思ってるんでしょ?」

 そりゃ、そうだけども……

「副社長にさ、彩乃の『本心』を洗いざらい話してみなよ?」

 いつまでも、逃げられはしないのはわかっている。

「それで玉砕したら、骨は拾ってあげるから。いつでもここに来なさいよ。ここじゃなくても、うちは売るほど家も部屋もあるしさ」
 彼女の家業である大橋コーポレーションの原点は不動産業だった。

 ——ここが、潮時か。

 意を決したわたしは、部屋を出て玄関へ向かった。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜

 
 カリフォルニアスタイルな邸宅のポーチに、将吾さんがたたずんでいた。朝日の逆光を浴びて、カフェ・オ・レ色の髪に見える。
「ビバリ◯ヒルズ青春白書」のテーマが、♪チャラララッ、チャッララ~と聴こえてきそうだ。

「……おまえ、スマホは?」

 史上最悪値で不機嫌な顔をした将吾さんが、低い声で訊く。

 わたしは肩にかけたボリードの中から、スマホを取り出す。

「あ……充電切れ」
そうつぶやくと、
「バカかっ!おまえはっ!?」
 いきなり大音声だいおんじょうが返ってきた。

   思わず両手で耳を塞ぐ。前の「家出」は故意に電源を切っていたのだが、今回は「自然現象」だ。

「捜索願を出すところだったんだぞっ!?」

 将吾さんは予期していたのか、モバイルバッテリーをポンッと投げてよこした。ちゃんとiPh◯ne用だ。

 スマホとバッテリーをつないで起動させ、L◯NEにタップすると、各方面からものすごい数の通話とトークが来ていた。

 両親と弟の裕太はもちろん、親友の華絵、会社の島村さん・七海ちゃん、親類の蓉子・慶人・大地・太陽……中でも群を抜いて多かったのが、将吾さんと海洋だった。

「ひいぃっ!……な、なんでっ?いい大人がたった一晩、家にいないだけで、なんでこんなに大騒ぎになってんのっ!?」

 わたしはとりあえず、【お騒がせしました。わたしは無事に生きております】というメッセージを関係各所へ打ち続けながら叫んだ。

「おまえが真夜中に黙って抜け出すからだっ!」

 ——な、なぜ、そこまで知ってるの!?

「朝比奈 海洋からおれの会社用のケータイに、『彩乃が突然いなくなった、居場所を知らないか?』と連絡があった」

 海洋が、将吾さんに!?

「あのクールな男が、結構、テンパってたぞ」

 う、うそっ!?

 あの、いつも冷静沈着で表情に出ない海洋が?電話ででもわかるくらい?

「親戚中に電話したみたいだぜ」

 ——ま、まさか……海洋と尾山台のマンションで一緒にいたの、親戚中にバレちゃった?

「将吾さん、なんで、ここがわかったの?」

 まずは、それを訊かなければ……

「おまえの実家に電話して、とりあえずおまえが頼りそうな人物を割り出し、所在地を洗い出した」

 ——えっ!?

「おまえの幼稚園時代からの親友とかいうのが東雲。会社の同僚の大橋が田園調布で、水野は赤坂見附。水島が代官山で、実家が南平台、妻の実家は目白。上條が月島で、実家が広尾、妻の実家は成城学園。朝比奈 太陽は中目黒、実家は水島の妻と同じ」

 将吾さんがすらすらと地名を並べた。

「おれのおふくろが、おまえがタクシーで『尾山台まで』って言ってたと言うから、深夜のおまえが頼るのはその周辺のはずだ。同じ世田谷の成城学園が近そうだが、上條の妻は結婚してからは隅田川沿いの月島で住んでいる」

 た、探偵っ!? す、推理してるじゃん!?

「そして、世田谷区と太田区とで区は違うが、実は尾山台と田園調布がほぼ隣接しているのに気づいた」

 ——こ、コ◯ンなのっ!?

「決定的だったのは、大橋だけがいくら電話しても出なかったことだ」

 だって、一緒にオー◯ス・ワンで「ビバ」ってたんですもん。

「キャリーバッグ、貸せ。持ってやる」
 将吾さんから手を差し伸べられる。

「将吾さん、今日、仕事のはずだったの?」

 わたしはキャリーバッグをダークグレーのスリーピースの彼に預けた。オーダーしたヒ◯ーゴ・ボスの中でも、大切な商談のときに着ているスーツだった。

「朝イチで、おまえの家に行ってた」

 なんで?

「おまえの親に土下座するためだよ」

 えええぇーっ!?

「ま、そんなことしなくていい、って言われたけどな」

 だけど……ということは……

 将吾さんがうちの両親に「婚約破棄」のことを報告した、ということだ。

 ——よかったね、将吾さん。

 これで、政略結婚じゃなくて、本当に好きな人と結婚できるね。

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