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Chapter 15
心よりカラダが正直になってます ③
しおりを挟むシャワーを浴びると、さすがに気持ちが落ち着いてくる。
ぐるぐる回っていた世界も、ちゃんと「固定」されてきた。
——わたし、なにやってたんだろう?
考えてみれば、将吾さんのお母さんであるマイヤさんには「婚約破棄」を伝えたことにはなっているが、まだうちの両親はなにも知らない。
っていうか、逃げ回ってばかりで、あれ以来将吾さんとですら話をしていない。
こんな中途半端な状態では、海洋とまた深い仲になるのは無理だ。
とはいえ、このまま彼の部屋に戻ると、なし崩し的に流されて、とんでもないことになるのは必至だ。
——海洋だって、わたしと急にこんなことになるより、頭を冷やして冷静になった方がいい。
わたしはチェストを開けて、目についたニットやスキニーパンツと下着類を取り出し、マイクロモノグラムのキャリーバッグに詰めた。
トラベル用のコスメが入ったレ◯ポのポーチを通勤用のボリードに放り込む。財布とスマホは入ったままだ。
わたしはそーっとドアを開けて廊下に出た。もちろん、キャリーバッグはがらごろせずに持ち上げた。
ラッキーなことに、わたしが使っていたゲストルームは玄関に一番近い部屋だった。
わたしは海洋に気づかれることなく、尾山台のマンションから「脱走」した。
そして、わたしはとりあえず、コンビニに入った。
こんな深夜に、キャリーバッグをがらごろして歩くのは見場もよくないし、第一危険だ。
わたしはスマホを取り出した。
まず「避難先」として頭に浮かんだのは、幼稚園のときからの親友の華絵だ。
だが、華絵には家庭がある。(なんだか、こんなふうに言うと不倫相手みたいだが……)
しかも、住んでいるところが逆サイドのベイエリアだ。終電も出たし、住宅街なのでタクシーも流れていない。
本当は、マンションの駐車場にあるゴルフRをかっぱらってきたかったのだが、キーはリビングに置いてあった。
そんな「危険」は犯せない。
こんな深夜に転がり込める、しかもここから近いところなんて……
——いや、あるぞ。
わたしはL◯NEのアプリをタップした。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
そのメル◯デス・ベ◯ツSクラスが、コンビニの前に現れたときは「フラン◯ースの犬」の最終回で、主人公ネロが念願のルーベンスの絵を見た瞬間に匹敵するほど、感動に震えた。
運転席から運転手さんが出てきて、後部座席のドアを開けてくれ、荷物はトランクに運んでくれた。
「……彩乃、乗りな」
車内の奥から声がかかる。
わたしは天国でネロに再会できたパトラッシュのように、見えない尻尾をぶんぶん振りながら乗り込んだ。
——あぁ、助かった。
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