政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
94 / 128
Chapter 15

心よりカラダが正直になってます ③

しおりを挟む

 シャワーを浴びると、さすがに気持ちが落ち着いてくる。

   ぐるぐる回っていた世界も、ちゃんと「固定」されてきた。

 ——わたし、なにやってたんだろう?

 考えてみれば、将吾さんのお母さんであるマイヤさんには「婚約破棄」を伝えたことにはなっているが、まだうちの両親はなにも知らない。

 っていうか、逃げ回ってばかりで、あれ以来将吾さんとですら話をしていない。

 こんな中途半端な状態では、海洋とまた深い仲になるのは無理だ。

 とはいえ、このまま彼の部屋に戻ると、なし崩し的に流されて、とんでもないことになるのは必至だ。

 ——海洋だって、わたしと急にこんなことになるより、頭を冷やして冷静になった方がいい。


 わたしはチェストを開けて、目についたニットやスキニーパンツと下着類を取り出し、マイクロモノグラムのキャリーバッグに詰めた。
   トラベル用のコスメが入ったレ◯ポのポーチを通勤用のボリードに放り込む。財布とスマホは入ったままだ。

 わたしはそーっとドアを開けて廊下に出た。もちろん、キャリーバッグはがらごろせずに持ち上げた。
 ラッキーなことに、わたしが使っていたゲストルームは玄関に一番近い部屋だった。

 わたしは海洋に気づかれることなく、尾山台のマンションから「脱走」した。


 そして、わたしはとりあえず、コンビニに入った。

 こんな深夜に、キャリーバッグをがらごろして歩くのは見場もよくないし、第一危険だ。

 わたしはスマホを取り出した。

 まず「避難先」として頭に浮かんだのは、幼稚園のときからの親友の華絵だ。

 だが、華絵には家庭がある。(なんだか、こんなふうに言うと不倫相手みたいだが……)
 しかも、住んでいるところが逆サイドのベイエリアだ。終電も出たし、住宅街なのでタクシーも流れていない。

 本当は、マンションの駐車場にあるゴルフRをかっぱらってきたかったのだが、キーはリビングに置いてあった。
   そんな「危険」は犯せない。

 こんな深夜に転がり込める、しかもここから近いところなんて……

 ——いや、あるぞ。

 わたしはL◯NEのアプリをタップした。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 そのメル◯デス・ベ◯ツSクラスが、コンビニの前に現れたときは「フラン◯ースの犬」の最終回で、主人公ネロが念願のルーベンスの絵を見た瞬間に匹敵するほど、感動に震えた。

 運転席から運転手さんが出てきて、後部座席リアシートのドアを開けてくれ、荷物はトランクに運んでくれた。

「……彩乃、乗りな」

 車内の奥から声がかかる。

 わたしは天国でネロに再会できたパトラッシュのように、見えない尻尾をぶんぶん振りながら乗り込んだ。

 ——あぁ、助かった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

処理中です...