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Chapter 15
心よりカラダが正直になってます ②
しおりを挟む海洋のくちびるが、わたしのくちびるに軽くタップする。何回かそれが続いたあと、焦らされて耐えきれなくなったわたしのくちびるが、開いた。
待ち構えていた海洋が、逃すはずがない。
すかさず舌が差し入れられ、深いくちづけが始まる。
互いの息がどちらの息がわからないほど、わたしたちは夢中で相手を求めた。
キャミソールは腰の方へと押し下げられ、ブラのホックはパチンと外され、ストラップが腕から抜かれた。露わになった乳房は、今や海洋の両手の中だ。
昔と変わらぬ彼の「手順」に懐かしさを感じる。
だけど……時折差し込まれる昔にはなかった「こと」に、わたしたちには八年以上もの「空白」があったのだ、ということが炙り出される。
海洋の手がわたしのショーツにかかった。
「か…海洋、わたし……シャワー浴びたい」
海洋の眉が険しくなる。
「なにを、今さら……別にいい」
そのまま「行為」を続けようとする。すでに、わたしのなにも着けていない上半身は、海洋の思うままにされていた。
「海洋はちゃんとシャワー浴びたでしょ?わたしは会社帰りの上に、外でお酒を呑んできたから、身体をきれいにしたいの」
わたしは彼の漆黒の瞳を上目遣いで見た。
熱を帯びて濡れたように艶やかな、ぞぐぞくする瞳を……
「海洋とは……その……『ひさしぶり』だし?」
ようやく、海洋が身を起こした。
くしゃっと前髪を掻き上げ、
「……この流れのままで、いきたかったんだけどな」
渋い顔でぽつりと言う。
——ごめんね。わかってる。
わたしは、ベッドの周辺に散らばったワンピと下着を拾い上げ、いつも使っているシャワールームに向かった。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
海洋と「そういうこと」になったのは、海洋が高校一年生、わたしが中学二年生の夏だった。
中高一貫の名門男子校に通っていたにもかかわらずどこで知られるのか、絶えず近づいてきた女の子たちから声をかけられ、隙あらば告白されていた、あの頃だ。
近隣の同年代の女子高生からはもちろん、歳上の女子大生からも狙われ始めた……あの頃だ。
まだコドモだったわたしは「オトナの女」たちに一生分の嫉妬をしている真っ最中だった。
あのときのわたしは、海洋しか見えていなかった。
——わたしは、早く、海洋がほしかった。
夏休みの数学の宿題を教えてほしい、というのはただの口実だった。
わたしはキャミソールのようなトップスに、太ももがすっかり見えるショートパンツを身につけて「家庭教師」の海洋を待っていた。
——一応、ミニスカートはあざとすぎるかな、と思ってやめにしたのだが……
だけど、胸の膨らみもやっと芽生えてきたところに、まだ少年のように硬くて細い太ももなんて、どこに色気があるというのだろう?
海洋に話しかけてくる彼女たちの丸みを帯びた身体つきの前には、為すすべもなかった。
わたしは途端に自信がなくなった。
わたしの部屋に入ってきた海洋は、ほんの一瞬、顔を顰めた。
だけど、すぐに普段のとおりの海洋になって『わからないのはどこだ?』と訊いてくる。
そして、適当に指差した問題をちらりと見て、『おまえ、こんな問題すら解けないのか?』と心底呆れた声でつぶやいたが、懇切丁寧に教えてくれた。
——いや、実際にわからなかった問題だったから、ものすごく助かったけれど。
『……これで、終わりだな?』
気がつけば、海洋の説明がわかりやすかったから、あれもこれもとガチで教えてもらっていた。
海洋の顔が近づいてきて、お互いのくちびるが重なる。
キスだけなら、わたしが小学校の高学年くらいからしていた。だから、どうせまた、いつものキス止まりなのだろうと思っていた。
ところが……
『……おまえ、ほかの男の前でこんな格好するんじゃないぞ』
海洋が今まで座っていたソファから、わたしを立ち上がらせた。そして、わたしの腕をとり、ベッドの方へと歩いて行く。
『か…海洋?』
作戦は、成功なのに……キスよりも先に行けそうなのに……
——初めて見る「男」の顔の海洋が……怖かった。
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