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Chapter 14
お姑さまから呼び出されてます ④
しおりを挟むコハダ・鯖の炙り・車海老・小柱・青柳・蛤・穴子…と江戸前のにぎりを堪能していた。
「うちのバカ息子、あなたにちゃんと自分の気持ち、伝えてるかしら?……伝えてないわよねぇ」
マイヤさんはまた一杯をくーっと呑み干した。将吾さんのお酒の強さは、母親譲りだった。
二人で石川の天狗舞を一升瓶から注いで、ぐびぐび呑っていたが、そのほとんどはマイヤさんだ。
わたしはちょっとだけ、回ってきたかな。さすがに、日本酒ばっかだしな。
「あの子はわたしのスウェーデンの父親によく似ていてね」
マイヤさんは目を眇めた。
「外国の血が入ってるからって、ストレートに愛情を示すわけじゃないのよ。スウェーデンは北国で雪国でしょ?日本で言えば、東北の人たちの気性とちょっと似てるかもしれないわね」
——そうなんだ。知らなかった。
「一旦、恋人同士や夫婦になったりすると甘々になるんだけど、そうなる前は口にも態度にもなかなか出さないのよねぇ」
マイヤさんがカウンターの隣に座るわたしを、改めて見る。
「……でもね」
カフェ・オ・レ色の瞳が一瞬、琥珀色に染まる。
「北国の男が一旦放った愛の言葉は、とてつもなく重い……真実の気持ちよ」
そして、ふふふ…と妖艶に笑った。
わたしなんかより……将吾さんは、わかばちゃんにちゃんと「愛情表現」できているかしら?
いくら長い年月の中で育んできた愛情だって、言葉にしなきゃわからないことがある。
「……わたし、あなたがうちのバカ息子のことを好いてくれてると、思ってたんだけどな」
マイヤさんがぽつり、と言う。
——少しお酒も回ってきたし。
だから、ちょっとだけ、素直になってみましょうか。
「……好いていますよ、もちろん」
だって……将吾さんには、こんなにしあわせになってほしいんですもの。
彼には本当に好きな人と、結ばれてほしい。
その隣にいるのが、わたしじゃなくて……
——たとえ、わたしがどんな思いをしようとも。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「彩乃、大丈夫?結構、呑ませちゃったわねぇ。今日はうちの家に……」
わたしをタクシーに乗せたマイヤさんが、眉を寄せる。
「だっ、大丈夫ですっ!運転手さん、尾山台までっ」
わたしは、ろれつが回らなくなりそうな舌を叱咤激励して言った。
将吾さんの家に戻るのは絶対イヤだ。
わたしが使っていたベッドが……将吾さんとわかばちゃんの「犯行現場」だからだ。
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