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Chapter 13
大地&亜湖さんの結婚式に行きます ②
しおりを挟む「たった一日で、こんなに彩乃にぴったりなリングが見つかるわけないわよ。しかも、見るからにグレードの高そうなダイヤモンドを使ってるし」
慶人を引っ張り回して、やっとこさピ◯ジェに決めた蓉子が断言した。
「富多のヤツ、彩乃に似合う指輪をあらかじめ調べてやがったな」
太陽がぼそっとつぶやいた。
「あいつはゼミの発表や卒論でも、しつこいくらい徹底的に調べるタイプだったからね」
慶人が大学時代に思いを馳せた。
「ねぇ、彩乃。秘書さんがずーっとタブレットで仕事してたって、ほんとは富多さんとリングのことで連絡を取ってたんじゃないの?」
蓉子が上目遣いで訊いてきた。
「そのとき、将吾さんはアメリカ支社の人たちとWeb会議をしてたから、メールで連絡を取り合ってたとは思うけど、リングのことじゃないよ。だって、思いっきり私用じゃん。国際会議の真っ最中だったんだよ?」
わたしは、ない、ない、ない、と目の前で手を振った。
「島村さんは律儀な人なの。忙しいのに、わたしがリングをつけた『証拠写真』まで撮ってくれてたんだよ?」
——本当に、あのときは島村さんにご足労かけた。
「それって、秘書さんがその写真をタブレットで送って、富多さんが最終的にどれにするか決めたってことじゃないっ!」
蓉子が確信を持って叫んだ。
——いやいやいや。それは美しすぎる誤解だわ。
わたしは、ない、ない、ない、と目の前で手を振り続けた。
「彩乃、そのイヤリングも、エンゲージと同じシリーズだよね?」
蓉子がわたしの両耳で輝く、ピヴォワンヌのイヤリングを見ている。つけただけで顔周りが華やかになり、こういう晴れやかな席ではほんとにお役立ちなイヤリングだった。
「そうよ。『おまけだ』って言われて、リングと一緒にもらったの」
美しい蓉子の顔が、突然ムンクの叫びになった。
「彩乃っ、そのイヤリングいくらするか知ってんの!?」
蓉子がいきなりスマホを手にして「無粋なことしてごめんねっ」と言って、タップを繰り返す。そして、ディスプレイを見せられる。
【ピヴォワンヌ イヤリング ¥820,800】
——ぎええぇぇ……っ!? 絶対に、落とさないようにしなければっ!!
わたしは両耳を押さえた。
クリスマスプレゼントは婚約指輪だと、将吾さんは言っていたのに……
「ねえちゃん、将吾さんからすんげぇクリスマスプレゼントをもらって、やっぱちゃんと愛されてんじゃん」
裕太がにやにや笑っている。
——なんだか、誤解が逆走して暴走してるんですけれども。
だけど——そりゃあ、超高価なアクセサリーをもらってうれしくないはずはないのだけれど……
将吾さんは、わかばちゃんにだって、クロスがトップについてるかわいいネックレスをプレゼントしてるみたいだし?
——あ、思い出さなくてもいいことを思い出してしまったわ。
この間みたいに酔っ払っちゃいけないから、今日は乾杯のときのシャンパンと白・ロゼ・赤のワインくらいしか呑むつもりはないけれど……
——もっと、呑みたくなってきた。
するとそのとき、太陽と裕太の間の席の椅子が、後ろへガタッと引かれる。その席は披露宴が始まっても空いたままだった。
「おまえ、また飛行機が遅れたのか?」
椅子に倒れこむようにどかっと座った相手に、太陽が訊く。
「わたしの結婚式でもぎりぎりだったよね?」
蓉子がほとほと呆れた顔をする。
「この人数だ。少々遅れてもわからないさ」
慶人が端正な顔でくすっと笑う。
「大変っすねー!先月アメリカから帰ってきてすぐ戻って、今月またでしょ?」
裕太が超軽い口調で労う。
「……おまえら、ごちゃごちゃうるさい。先刻、成田に着いたばっかで時差ボケなんだ」
いかにも不機嫌な様子で顔をしかめていたのは……
——黒のタキシード姿の海洋だった。
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