政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
78 / 128
Chapter 13

大地&亜湖さんの結婚式に行きます ①

しおりを挟む
 
 二月下旬の大安吉日。

 再従兄妹はとこ同士という遠縁とはいえ、兄妹のように幼い頃から仲良くしてきた上條 大地と、彼と同じ会社に勤務する田中 亜湖さんの結婚式と披露宴が、あさひJPNグループが新年のパーティで毎年使っている、わが国を代表する一流の老舗ホテルで開かれる。

 結婚式は神前式ということで——大地は亜湖さんが白無垢姿が似合うからと言っていたが、実は自分がチャペルで花嫁を待つ手持ち無沙汰な「マヌケな新郎」になりたくなかったからだと思う——今回は夕方の披露宴からの出席だ。

 なので、セレクトショップで見つけたロイヤルブルーのセミイブニングドレスを着る。
 ホルターネックで、身体からだのラインにぴったり沿ったマキシ丈のベルベットのドレスだ。すでに髪を夜会巻きにセットしてもらっていて、今日はなかなかセクシーな感じになっている。

 大学の同窓だった慶人の結婚式とは違い、大地とは交流のない将吾さんは来ない。

 ——どうせ、なにかと「ご多忙」でしょうしね?


 将吾さんの家を出る前にパウダールームでチェックをしていたら、将吾さんが入ってきた。

『……その背中、開きすぎてやしないか?』
 彼が顔をしかめる。大きなお世話だ。

『ショールを羽織るから』
 ウソだ。ホテルではショールなんて羽織らない。背中は御開帳してやる。

 ——あっ、将吾さんのキスマーク、ついてないよね?

 わたしは背中を鏡に映して確かめる。

『今日はおれがいないんだから、絶対に呑み過ぎるなよ』
 将吾さんがそう言って、わたしを後ろから抱きしめようとする。キスマークをつける気だ。

 わたしは彼を振り払った。
『わかってる。……遅れるから、もう行くね』


 あれ以来、将吾さんとは同じベッドでは寝ているけれど「添い寝」状態だ。
 ノーブラはやめてちゃんと就寝用のブラをきっちり着けることにしたし、キスマークがつくようなことはさせていない。

 まぁ……起きたときに、たまたま抱き合ってたりすることがあるが、それは不可抗力だ。
 それから、わたしが眠りにつく間際に、将吾さんがそっとやさしく、くちびるを重ねるのも……

 ——それは、不可抗力だ。


 ゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 披露宴が賑々しく始まった。

 先月、親戚の慶人と蓉子も利用した、わが国を代表する老舗ホテルの、芸能人なんかの派手な結婚式でテレビ中継が入ったりする、美しい鳥の名がついた一番大きくて広い会場だ。
 わたしと将吾さんも、今のところは、四月にこの会場で披露宴を行うことになっている。

 そういえば、あのとき……
『いくつあるんだ、テーブル?まさか全部をキャンドルサービスで回るんじゃねえだろうな?』
って、将吾さんがずらりと並んだ丸いテーブルを見て、心底げんなりした顔をしていたっけ。

 ——なんだか、何年も前のような気がする。

 わたしは知らず知らずのうちに、ため息をついていた。


「……ちょっと、彩乃っ。どうしたのよ?」
 左隣の席の、再従妹はとこの蓉子が訊いてきた。

「将吾さんが来てないから、テンションが上がらないんじゃねえの?」
 右隣の席の、弟の裕太が余計なことを言う。

「僕と蓉子の披露宴だったのに、主役はどっちだ?っていうくらい、君たちには高砂席でイチャつかれたからね」
 蓉子の隣にいる彼女の夫となった慶人が、にやりと笑う。

「彩乃、政略結婚って言ってたくせに、いつの間にあんなに富多とラブラブになったんだよ?」
 慶人の隣の、蓉子の兄の太陽が興味津々に訊く。

「もう、今日は大地と亜湖さんの披露宴なんだから、あんたたち、ちゃんと前見なさいよっ」

 高砂席の大地と亜湖さんが、はるか前方に見える。司会に雇った某テレビ局のアナウンサーがなにやらしゃべっているが、この周囲のテーブルはだれも聞いちゃいない。
 名物のローストビーフや某国の女王陛下の名前がついた車海老のグラタンは、先月食べたばかりでもやっぱり美味おいしかった。

「……彩乃、そのエンゲージリング、すっごく似合ってるね」
 蓉子がわたしの左手薬指を見て、目を細めた。

 ブシ◯ロンのピヴォワンヌが巨大なシャンデリアの光に反射して、ありえないくらいギラギラ輝いていた。
 最初はこんな派手なリングはとてもつけられないと思っていたが、このような大掛かりな席にはこのくらい迫力があるものでないと、逆に場にそぐわないことがわかった。

「ずいぶん見て回ったんでしょ?」
 蓉子の問いかけに、わたしは首を振った。

 彼女のエンゲージもやはりゴージャスだった。
   薔薇の花びらをモチーフにダイヤモンドがふんだんに使われたピ◯ジェのローズだ。

「将吾さんの仕事が忙しくて、一日で決めたの」

「しかも、将吾さんは姉貴を秘書と一緒に行かせたんだぜ?」
 裕太がおもしろおかしく言う。

「「「ええぇーっ!?」」」
 蓉子、慶人、太陽がった。

「じゃあ、彩乃が一人で選んだの?」
 蓉子がわたしを憐れむように見た。

「ショップに行ったら、いくつか見せられて、よくわかんないうちに決まってたんだけど。秘書の島村さんが気の毒でね、仕事が忙しいのについてきてくれたの。だから、ずーっとタブレットで仕事してたんだよ」

「……はぁ?」
 蓉子が腑に落ちない顔になる。

「そういえば、クリスマスの日にリングを受け取りに、将吾さんと一緒にショップへ行ったんだけど、店員さんが、あらかじめ伺ってたから国内外から良い石のものを集めたとかなんとか、ワケのわかんない話をしてたなぁ。セールストークだよね?」

 急に、一同が黙り込んだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...