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Chapter 11
彼のお部屋で疑心暗鬼になってます ①
しおりを挟む将吾さんの実家で暮らすようになって、わかったことがある。
——彼のご両親はとても仲がいい。
お義母さまは北欧家具を輸入販売する会社の社長という役職柄、かなりの頻度で国内外問わず出張しているが、家にいるときはお義父さまとよく話をしている。
特に晩ごはんを食べたあと、ダイニングルームからリビングルームに移動して、コーヒーを飲みながら二人でいつまでもおしゃべりしている。
スウェーデンの人たちがこよなく愛するfikaという親しい人と過ごすコーヒータイムらしい。
ちなみにそのときのBGMは、わたしがお義母さまにプレゼントした無◯のスウェーデン・トラディショナルのCDだ。かなり気に入ってくれたらしく、iTu◯esでスマホにも入れてヘビロテしてくれているらしい。
だが、ご両親のfikaが始まると将吾さんはわたしを連れて早々に自分の部屋に引きこもってしまう。
では、その部屋でわたしたちがお義父さまやお義母さまのように楽しく語らっているかといえば、とんでもない。
将吾さんはコ◯ランショップの寝心地のよいベッドでノートPCを開いて仕事を始めるし、わたしはコ◯ランショップの座り心地のよいソファでゼ◯シィを読んでいるしで……会話をするどころか、まったく別々のことをしている。
また、改めて将吾さんを観察するようになって気づいてしまったことがある。
彼の……島村さんの妹であるわかばちゃんへの眼差しである。
わかばちゃんは、この家のハウスキーパーである母親の静枝さんをごはんのときなどにお手伝いしているのだが、彼女がお皿やグラスなどを配膳する様子などの一挙手一投足を将吾さんはいつも目を細めて見ているのである。
そして、やはり彼女には、まるで蕩けるような笑顔で接していた。
ちなみに、将吾さんがわたしに対してそのような笑顔を向けたことは一度もない。
その笑顔を初めて見たクリスマスのときには、この人もこんな笑顔をするんだな、くらいにしか思わなかったけれど……
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
いつものように夕食後、将吾さんのお部屋でそれぞれのことをしていた。
「……いつも弁当だったんだな?」
めずらしく将吾さんが問いかけてきた。でも、ノートPCから顔を上げないままだ。ブルーライトカットの眼鏡をかけて、仕事モードである。
今日、お昼休憩のときにわたしを呼び出した際に、わたしがグループ秘書の誓子さんと七海ちゃんとお弁当を食べていたのを初めて見たのだった。
「そうだけど、なに?」
わたしも見ていた今月号のゼ◯シィから顔を上げずに答える。
「静枝さんにつくってもらってるのか?」
キーを叩く音が部屋に響く。
「まさか……キッチンを借りて自分でつくってるわよ」
キーの音が突然止んだ。
「おまえ、料理ができるのか?」
顔を上げて、意外そうにしている。
——失敬なっ。
「一応、家庭料理くらいだったらできるよ。料理教室には通ったことないから、本格的なものは無理だけど」
しょっちゅう食べ歩きをして研鑽を積んでいる再従妹の蓉子は、洋食ではカフェ並み、和食では小料理屋並みに料理ができるが——夫になった慶人は、毎日美味しいものが食べられてほんと幸せだと思う——わたしはそこまではできない。
「……なんで、おれの弁当はないんだ?おれのも、つくれよ」
——えっ?
「お昼は出先で外食とかが多いでしょ?ランチミーティングでは有名店の仕出し弁当だし。あれ、すっごく美味しそうじゃん」
グルメ番組でよく紹介されているお店の松花堂弁当だよ?
「おまえ、秘書だろ?そういうのがない日に、なに食ってるか知ってるだろ?……テイクアウトの◯牛だぞ」
——確かに、七海ちゃんに買ってきてもらって食べてるな。あと、コンビニ弁当とか。
「わかったわよ。……じゃあ、島村さんの分とつくるね」
分量が増えるだけなので、そんなに手間ではない。
「なんで、茂樹の分までつくるんだ?あいつは◯牛のままでいいっ」
将吾さんは一気に不機嫌な声になった。
そのとき突然、彼のケータイに電話がかかってきた。会社用の方だ。
「……あ、葛城社長。今日はわざわざ我が社までご足労いただきありがとうございました。……えっ、彩乃のスマホの連絡先ですか?」
将吾さんが、怪訝な顔でわたしの顔を見る。
「それなら、今、代わりますよ。……えぇ、そうです。彼女とはもう同棲してますから」
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