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Chapter 10
酔った勢いで素直になってます ④
しおりを挟む「……まぁ、いい」
将吾さんはふうーっと息を吐いた。
「おまえがおれの部屋にわざわざ抱かれに来てくれたから、今回は寛大にも許してやる」
——いやいやいや。そもそもは、悪口と文句を言うためにここに来たんですけれども。
「そして、これから」
将吾さんの琥珀色の瞳が艶めかしく輝き、妖しい光を落とした。
「おまえがだれと婚約しているのかを……おまえと結婚するのはだれなのかを……たっぷりと理解らせてやるから」
将吾さんはいきなり、わたしのもふもふのフリースを捲り上げた。
「……ぅわっ!」
わたしは相変わらずノーブラで寝ているので、たちまち二つの乳房が露わになる。
将吾さんはわたしの左胸を大きな手のひらで包み、右胸を口に含んだ。
「ぅう……ん……っ」
思わず、恥ずかしい声が漏れる。
——だけど、あれっ……既視感?
なんか、将吾さんに触られてるこの感覚。なんとなく「覚え」があるんですけれども……
さらに、実に見事に、わたしのカラダが反応するツボを押さえて「口撃」されてるんですが……
——それとも、将吾さんの「経験」の賜物?
「あぁ、おまえが寝てる間にいろいろやってるからな」
将吾さんが顔を上げて、衝撃の発言をした。
「かなりなことをやってんのに起きないから、てっきり寝たふりしてんのかと思ってたけど。……違うのか?」
——なっ、なんてことをっ!
「同意も合意もなしで、ひどいじゃんっ!」
わたしが抗議すると、
「男と寝るのにノーブラなおまえが悪い」
速攻で反撃を喰らってしまった。
——だって、ブラして寝るの、窮屈だもん。
そういえば、起きたときに度々あった鎖骨の下のキスマークなんて、ハイネック風のこのフリースだと捲り上げないとできないもんなぁ……
「……おまえ、寝てたときの方がもっと色っぽく喘いでたぜ?」
そう言うと、将吾さんは顔を下げて左と右の形勢を逆転させた。
——今は気を逸らして無理矢理、理性を保ってるんですっ!
でも、もう……限界、かも。
「……ここから先は、まだ知らないからな」
将吾さんが荒い息でそうつぶやいて、わたしのショーツの中へ手を這わせる。
もふもふのフリースの上下は、とっくの昔にベッドの外へ放り投げられている。
将吾さんも先刻、スウェットの上下を乱暴に脱ぎ捨てていた。
わたしはすっかり、あふれんばかりになっていて、彼の指を受け入れる。
「……彩乃、狭いな……ご無沙汰か?」
将吾さんが指だけじゃなく、その表情と声でもわたしを揺さぶる。本当に意地悪だ。
「お仕置き」はまだ続いていて、彼はまだ一度もくちづけしてくれることはなくて……
ただ、わたしが彼の指でこの上もなく乱れている姿を……そんなわたしの顔を、ただ、見つめていた。
——この人、絶対に人工授精なんかせずに、自力でわたしに子どもをもうけさせるつもりだ。
そのために、なんだかいろいろ策を練っていて、自分がまんまとそれにハマっていたことに……
たった今、気づいた。
だけど……
海洋とは、つらい恋だった。
想いは通じ合っていたのに……いつも不安で不安で、しようがなかった。
その反面……海洋が好きだという気持ちだけで、百パーセント満たされた恋だった。
将吾さん、あなたなら……
あの恋を、忘れさせてくれる?
あの恋以上に……わたしを夢中にさせてくれる?
はじまりは「政略結婚」でも……
あなたをちゃんと好きになってもいい?
海洋じゃなくて、あなたと……
幸せになりたい、と思ってもいい?
——あぁ、意識が飛ぶ。
微かに、将吾さんの声が聞こえる。
「おいっ、彩乃っ、寝るなっ!」
将吾さんが、焦ってる。先刻まで、わたしに意地悪していたのが、ウソのようだ。
「ここまでさせておいて、おれを生殺しにする気かっ!?……勃ちまくったコレどうしろってんだよっ!?」
——ごめんね。でも、ここまででよかったのよ。おやすみなさい。
しばらくまどろんでいたら諦めがついたのか、将吾さんがなにかつぶやいて、わたしをすっぽりと包み込んだ。
前にも聞いた、英語でも日本語でもない言葉だった。スウェーデン語だろうか?
そして、わたしは念願どおり、将吾さんに抱きしめられながら……
——眠りにつくことができた。
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