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Chapter 10
酔った勢いで素直になってます ①
しおりを挟むもう一度、パウダールームへ行く羽目になった。
海洋とあんなことをしてしまったので、大きな鏡に映った顔は、ますます真っ赤っかだ。
おまけにグロスはすっかり落ち果てて、くちびるはどスッピン状態だった。
足元は先刻よりもっとひどく、ふらふらしている。なんだか、頭もずきずきと痛い。
——だけど、ずいぶん時間経ってるしなぁ。
わたしは手早くメイクを直し、ふらつく足を律しながら、披露宴会場に向かった。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
わたしは披露宴会場のテーブルに戻った。
将吾さん、大地、亜湖さん、そして裕太以外に太陽もいたが、海洋はいなかったのでひとまずホッとする。
将吾さんは太陽と親しげに話をしていた。
二人とも学部は違うが同じKO大出身だった。慶人を通じて、顔見知りだったのであろう。
将吾さんはスウェーデンとのクォーターだが、色素の薄い太陽もハーフかクォーターのような風貌だ。
——太陽はまだ一生をともにするような相手に巡り会えてないのかな?
相変わらず、まだまだ遊び足りなさそうな顔つきをしていた。
太陽と海洋は双子だが二卵性なので似ておらず、むしろ太陽は慶人によく似ていて、海洋は大地によく似ていた。
親戚の同年代の男どもは四人とも、一八〇センチ前後の長身でイケメン揃いではあるが、子どもの頃から一番チャラくて、女性関係に問題ありだったのが太陽だ。
足がめちゃくちゃ速くて、陸上部に入ったらインターハイ出場間違いなし、と言われていたのに「放課後まで野郎に囲まれていたくない」との理由により、帰宅部でバンド活動に勤しみ他校の女子たちからキャーキャー言われていた。
中高一貫の超名門男子校に通っていた頃の彼らに一度、一番成績が良くて本当に頭の賢いヤツはだれ?って訊いたことがあった。
すると、速攻でしかも全員一致で「太陽」と答えたのでびっくりした。なんでも医学部も狙えるほどの成績だったらしい。
『どうして医者にならなかったの?医者ってモテるじゃん?』
太陽にそう訊いたら、
『バカか。医者ってのは成績がいいってだけでなっちゃいけない職業だ。おれより海洋の方がずっと向いてる』
と、いつになく真顔で返された。
太陽がしゃかりきになって勉強しているという話はとんと聞いたことがないが、経済学部ではなく敢えて商学部に進み、在学中に公認会計士の資格を取得した。
また、あさひJPN銀行に入行したあと、銀行から留学した先は超名門ハーバード大のビジネススクールで、もちろんしっかり経営学修士を得ている。現在は、執行役員である経営企画部長に就いて、頭取へのキャリアを着々と積んでいた。
まだまだチャラさは残っているが、ヤツも朝比奈の一族らしく、朝比奈にとって一番有益になる道を歩んでいる。
その太陽が唖然とした顔で言った。
「……彩乃、なんだ?その真っ赤っかな顔は?浴びるほど酒でも呑んだか?」
「失礼ね。蓉子の結婚式でそんなに呑むわけないでしょ」
わたしは太陽をきゅっと睨んだ。
「ワインの白・ロゼ・赤の一杯ずつと、あとは亜湖さんと同じソフトドリンク三杯よ」
すると、大地と亜湖さんがぎょっ、とした。
「お…おまえ、亜湖と同じものを飲んだのか?」
——あら、なによ。わたしがあなたの愛する妻と同じものを飲むのが気に入らないわけ?
「彩乃さん、あれはジュースじゃないの。リキュールなんだけど日本酒ベースだから、かなりキツいお酒なの」
亜湖さんは申し訳なさそうに言った。
「亜湖は一人で一升瓶を空けるほどの酒豪なんだっ!おれも慶人も蓉子も、酔い潰されてエラい目に遭ったっ!!」
「「「「「えええぇぇぇ……っ!? 」」」」」
大地の言葉に、このテーブルだけじゃなく周りのテーブルの人たちまでも、どよめきながらのけぞった。
「び…ビールが呑めないんじゃなかったの?」
亜湖さんはセーラー服やブレザーの制服を着ていても違和感ないほどの童顔だ。
「ビールだけが呑めないんです」
わたしがソフトドリンクだと思ってくぅーっと飲んだのは、奈良の「梅◯宿」という日本酒リキュールで、口あたりがジュースなのに恐ろしく回って足元をとられる「危険な」お酒らしい。
蓉子が日本酒好きの亜湖のために、ホテルに入っている日本料理のお店から特別にオーダーできるよう配慮したものなんだそうだ。
ちなみに、亜湖さんは今、ピーチジュース(本名は「あらごしもも」)を呑んでいた。
わたしは、へなへなへな…と腰砕けになった。
将吾さんがあわてて、がしっと支えてくれた。
「おい、こらっ、彩乃!しっかりしろ!」
将吾さんが眉を顰めて、わたしを窘める。
でも、飲んでいたのがお酒だったと聞いて、急に酔いが回ってくるような気がした。
——もう、頭の中がぐるぐるだ。
自然と将吾さんの胸に頭を預けていた。
将吾さんは天を仰いだ。
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