58 / 128
Chapter 9
突然の再会に逃げ惑ってます ②
しおりを挟む披露宴が賑々しく始まった。
わが国を代表する老舗ホテルの、芸能人なんかの派手な結婚式でテレビ中継が入ったりする、美しい鳥の名が付いた一番大きくて広い会場だ。
わたしと将吾さんも、四月にこの会場で披露宴を行う。
「いくつあるんだ、テーブル?まさか全部をキャンドルサービスで回るんじゃねえだろうな?」
将吾さんがずらりと並んだ丸いテーブルを見て、心底げんなりした顔をしている。
明日——ほんとは三ヶ月後——は我が身、だからだ。
「まさか。軽く見ても千人以上いるよ。キャンドルサービスだけでもうお開きになるじゃん」
——そんなの、さすがにわたしもうんざりだ。
高砂席の慶人と蓉子が、はるか前方に見える。
司会に雇った某テレビ局のアナウンサーがなにやらしゃべっているが、この周囲のテーブルはだれも聞いちゃいない。次々とサーブされる素晴らしいフランス料理を前に、みな舌鼓を「達人」のように連打している。
わたしたちのテーブルにはほかに、再従兄の大地とその奥さんの亜湖さん、そして、わたしの弟の裕太がいた。
将吾さんに大地や亜湖さんはさすが非の打ち所がないテーブルマナーだった。
しかし、成人式のときにオーダーしたスーツを着た裕太がいちいち「すっげぇー、マジでヤバいくらい超うめぇー」を連発するので、ものすごく恥ずかしかった。
——そりゃあ、名物のローストビーフや某国の女王陛下の名前がついた車海老のグラタンは、お世辞抜きで美味しかったけれど。
海洋は最後方の家族席のテーブルに座っているはずだ。
教会からこの会場に移動する際に、顔を合わせたら気まずいな、と思っていたのだが、双方の家族たちは写真撮影があるとかで、別室へ行ってしまった。
——正直ホッとした。
わたしは呑んでいたグラスワインの赤がなくなったので、人を呼んだ。亜湖さんが飲んでいるのと同じものをお願いする。
彼女は乾杯の際のシャンパンを呑んだあとはビールが呑めないとかで、ソフトドリンクを飲んでいた。今はオレンジジュースを飲んでいる。どうやら、あまりお酒が強くないらしい。
届いたオレンジジュースはつぶつぶ入りの果汁百パーセントで、味が濃くとっても美味しかった。広い室内で空気が乾燥しているのか、喉が渇いていたので、わたしはくぅーっと一気に飲んだ。
隣の亜湖さんを見ると、今度はマンゴージュースを飲んでいた。わたしはまた人を呼び、同じものを所望して持ってきてもらった。
——あぁ、これも甘くて美味しい。
さすが、一流の老舗ホテルの果汁百パーセントジュースである。味が半端なく濃厚だ。
また隣の亜湖さんを見ると、今度は柚子ジュースを飲んでいた。
マンゴージュースはとっても美味しかったけれど、ちょっと口の中がねっとりしていた。わたしはまた亜湖さんに便乗して、柚子ジュースを手に入れて飲んだ。
——あぁ、口の中がさっぱりさわやかだ。
そのとき、後方からなんか不穏な気配を感じた。
ふと窺うと、太陽と海洋がこちらに歩いてくるところだった。
わたしは、将吾さんに声をかけた。
「……ねぇ、慶人と蓉子に挨拶に行かない?」
わたしたちは椅子から腰を上げた。
急に立ち上がったためか、わたしは少しふらついてしまった。マノ◯・ブラニクの華奢なピンヒールのせいかもしれない。
すかさず、隣の将吾さんがわたしの腰に手を回して支えてくれる。こういうところは、さすが英国はケンブリッジ大学で学んだジェントルマンである。
「どうした?」
将吾さんがわたしの顔を覗き込む。
「……ちょっと、ふらついただけ。大丈夫」
わたしは将吾さんに微笑む。
急がねば、太陽と海洋がこのテーブルに到着する。太陽には悪いが、海洋とは顔を合わせたくないのだ。
わたしは将吾さんの手をとって、高砂席へと向かった。
0
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる