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Chapter 9
突然の再会に逃げ惑ってます ②
しおりを挟む披露宴が賑々しく始まった。
わが国を代表する老舗ホテルの、芸能人なんかの派手な結婚式でテレビ中継が入ったりする、美しい鳥の名が付いた一番大きくて広い会場だ。
わたしと将吾さんも、四月にこの会場で披露宴を行う。
「いくつあるんだ、テーブル?まさか全部をキャンドルサービスで回るんじゃねえだろうな?」
将吾さんがずらりと並んだ丸いテーブルを見て、心底げんなりした顔をしている。
明日——ほんとは三ヶ月後——は我が身、だからだ。
「まさか。軽く見ても千人以上いるよ。キャンドルサービスだけでもうお開きになるじゃん」
——そんなの、さすがにわたしもうんざりだ。
高砂席の慶人と蓉子が、はるか前方に見える。
司会に雇った某テレビ局のアナウンサーがなにやらしゃべっているが、この周囲のテーブルはだれも聞いちゃいない。次々とサーブされる素晴らしいフランス料理を前に、みな舌鼓を「達人」のように連打している。
わたしたちのテーブルにはほかに、再従兄の大地とその奥さんの亜湖さん、そして、わたしの弟の裕太がいた。
将吾さんに大地や亜湖さんはさすが非の打ち所がないテーブルマナーだった。
しかし、成人式のときにオーダーしたスーツを着た裕太がいちいち「すっげぇー、マジでヤバいくらい超うめぇー」を連発するので、ものすごく恥ずかしかった。
——そりゃあ、名物のローストビーフや某国の女王陛下の名前がついた車海老のグラタンは、お世辞抜きで美味しかったけれど。
海洋は最後方の家族席のテーブルに座っているはずだ。
教会からこの会場に移動する際に、顔を合わせたら気まずいな、と思っていたのだが、双方の家族たちは写真撮影があるとかで、別室へ行ってしまった。
——正直ホッとした。
わたしは呑んでいたグラスワインの赤がなくなったので、人を呼んだ。亜湖さんが飲んでいるのと同じものをお願いする。
彼女は乾杯の際のシャンパンを呑んだあとはビールが呑めないとかで、ソフトドリンクを飲んでいた。今はオレンジジュースを飲んでいる。どうやら、あまりお酒が強くないらしい。
届いたオレンジジュースはつぶつぶ入りの果汁百パーセントで、味が濃くとっても美味しかった。広い室内で空気が乾燥しているのか、喉が渇いていたので、わたしはくぅーっと一気に飲んだ。
隣の亜湖さんを見ると、今度はマンゴージュースを飲んでいた。わたしはまた人を呼び、同じものを所望して持ってきてもらった。
——あぁ、これも甘くて美味しい。
さすが、一流の老舗ホテルの果汁百パーセントジュースである。味が半端なく濃厚だ。
また隣の亜湖さんを見ると、今度は柚子ジュースを飲んでいた。
マンゴージュースはとっても美味しかったけれど、ちょっと口の中がねっとりしていた。わたしはまた亜湖さんに便乗して、柚子ジュースを手に入れて飲んだ。
——あぁ、口の中がさっぱりさわやかだ。
そのとき、後方からなんか不穏な気配を感じた。
ふと窺うと、太陽と海洋がこちらに歩いてくるところだった。
わたしは、将吾さんに声をかけた。
「……ねぇ、慶人と蓉子に挨拶に行かない?」
わたしたちは椅子から腰を上げた。
急に立ち上がったためか、わたしは少しふらついてしまった。マノ◯・ブラニクの華奢なピンヒールのせいかもしれない。
すかさず、隣の将吾さんがわたしの腰に手を回して支えてくれる。こういうところは、さすが英国はケンブリッジ大学で学んだジェントルマンである。
「どうした?」
将吾さんがわたしの顔を覗き込む。
「……ちょっと、ふらついただけ。大丈夫」
わたしは将吾さんに微笑む。
急がねば、太陽と海洋がこのテーブルに到着する。太陽には悪いが、海洋とは顔を合わせたくないのだ。
わたしは将吾さんの手をとって、高砂席へと向かった。
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