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Chapter 9
慶人&蓉子の結婚式に行ってます ①
しおりを挟む一月下旬の大安吉日。
再従兄弟姉妹同士という遠縁とはいえ、兄弟姉妹のように幼い頃から仲良くしてきた水島 慶人と朝比奈 蓉子の結婚式と披露宴が、あさひJPNグループが新年のパーティで毎年使っている、わが国を代表する一流の老舗ホテルで開かれる。
将吾さんも、慶人の大学時代のゼミ仲間として招待されていた。
昼間なので、将吾さんはブラックのジャケットにブラックとグレーのストライプのコールパンツを組み合わせたディレクターズスーツだ。
そして、わたしはセレクトショップで見つけたティ◯ァニーブルーのセミアフタヌーンドレスで出席する。
七分袖の部分が繊細なレースで、Aラインのミモレ丈のフレアスカート部分にはチュールが使われていてふんわり広がっている。
婚約が正式に決まったわたしたちは、一緒に会場入りした。
そういえば、子どもの頃は半強制的に連れて行かれたけど今はすっかりご無沙汰している「新年パーティ」は、結婚したら夫婦で出席するのが慣例だった。
——ということは……来年からは将吾さんと一緒に出席しなければならなくなるのか。
わたしが将吾さんのおうちに「同居」するようになって以来、夜バスルームを出た彼が自分の部屋を素通りしてわたしの部屋をつなぐ扉から侵入し、わたしのクィーンサイズのベッドに潜り込んで隣で寝るようになった。
「……こんなことなら、キングサイズにしときゃよかった」
とかなんとかぶつぶつ言いながらも、イヤがる女を無理矢理手篭めにするのは、彼のプライドが許さないらしく、わたしたちは清いまま朝を迎える。
ゆえに——決定的な「間違い」は起こっていない。
まぁ、目覚めたときに知らぬ間に抱き合っていて、わたしの鎖骨の下辺りに「赤い花」が咲いていることはあるけれど……
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
わたしたちは結婚式が執り行われる教会へ入った。
わたしは新郎新婦の両方の親戚なのでどちら側でもいいが、将吾さんが慶人側の招待客なので新郎側の席に向かう。
ホテルの結婚式専用「教会」とはいえ、さすがこの国を代表する老舗ホテルである。
結婚式場によくある浮わついた急ごしらえなところがまったくなく厳粛な感じがする。それでいて、側面のステンドグラスから差し込む太陽の光が、チャペル全体をやわらかく包んでいる。
「よく見とけよ。三ヶ月後、あそこに立つのはおれたちだ」
将吾さんが、正面にある神父さまの聖書台の方を見てにやりと笑った。
わたしも微笑みながら彼を見た。
「将吾さんこそ、本番で粗相をしないようにちゃんと見ててよ?」
わたしたちの結婚式と披露宴が四月末に決まった。五月の大型連休に合わせて新婚旅行へ行くためである。
TOMITAの海外支社を統括する将吾さんは、なかなかまとまった休みが取れない。
新婚旅行に理解のある欧米はともかく、五月の上旬に大型連休のある日本や中国に合わせておいた方がなにかと都合がいい。
旅行先は、イギリスの王子やハリウッド俳優たちも選んだ「インド洋の真珠」と呼ばれる超高級リゾート地である。
将吾さんがそこに決めたのだが、時差もそんなに気にすることなく、プライベートアイランドを貸し切ってのんびりできるそうだ。
毎日、仕事に忙殺されてるから、せめてこんなときくらい、彼にはゆっくりしてほしいと思う。インドア派のわたしにしても、逆に観光巡りとかに引っ張り回されるより、ずっといい。
遠縁の上條大地の姿が見えた。
彼は慶人とは従兄弟同士なので、蓉子とも親戚ではあるが新郎側の席にいた。
「大地、ひさしぶり!」
わたしが声をかけると、彼が振り向いた。将吾さんと同じくディレクターズスーツだ。
「おう、彩乃……結婚が決まったんだってな?」
大地がにやっ、と笑った。
そうよ、あんたと同じ「政略結婚」よっ。
と、冗談のひとつでも飛ばしてやろうかと思ったが、隣に振袖を着た小柄な女性がいたので、あわてて引っ込めた。
——この人があのときの「市松人形」か。
臙脂色の古典柄の着物がすごく似合っている。
まだ小学生だった頃に一度見たきりなのに、同じような着物に同じようなミディアムボブだったからか、一目でわかった。
大地がわたしの隣の将吾さんを見て、態度を改めた。
「初めまして。上條 大地と申します。彩乃とは遠縁ですが、子どもの頃から従兄妹同士のようなつき合いです」
「大地は慶人の従兄弟で、同じあさひ証券に勤めているの」
わたしが将吾さんに説明する。
「この四月から、本社の経営企画本部長に就くことになりました」
大地の言葉に、将吾さんが少し目を見開いた。
「こちらこそ、初めまして。この度、彩乃さんと四月に結婚することになりました富多 将吾です。TOMITAホールディングスの副社長をしております」
将吾さんが右手を差し出して、二人はがっちり握手をした。
「将吾さんは慶人とはKO大のときのゼミ仲間なのよ」
わたしは大地に説明する。
「そうか……世の中は狭いんだな」
大地はそう言って、傍にいた振袖の女性を引き寄せて紹介した。
「妻の亜湖です」
「上條 亜湖です。よろしくお願い申し上げます」
彼女は丁寧にお辞儀をした。
「おれたちの挙式と披露宴は来月だけど、入籍は慶人たちよりも早かったんだぜ」
大地が自慢げに言う。隣で亜湖さんが困ったように苦笑している。
——まだしょーもないことで張り合ってんのか、慶人と大地は。
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