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Chapter 8
彼に夜這いをかけられてます ③
しおりを挟む将吾さんの大きな手のひらが、ユニクロのもふもふの上からわたしの胸のふくらみを包んだ。
「こ…これ以上進めたら、わたし、実家に帰ります」
「……はぁ?」
将吾さんが顔を上げる。でも、知ったこっちゃないとばかりにすぐに顔を下ろす。
「ど…『同棲』じゃないって言ったじゃん。親の前で。『同居』だったら、こんなことしないでしょ?」
将吾さんはわたしの声を無視して、鎖骨までくちびるを這わせる。もふもふの上からとはいえ、胸を揉み始めた。
「は…話が違うっ!か…帰るっ。うちに帰るっ!帰る、帰る、帰るーっ!! 」
初めてのお泊まりをしてホームシックになった子どものように叫んでみた。
すると……
「うるさいっ、黙れ。近所迷惑だ。おれが犯罪者みたいじゃないかっ」
いったんそう放ってくちびるを離れたかと思ったら、すぐにまた将吾さんのくちびるで塞がれる。
「……どう見ても、キスまではノリノリだろ?なんでそのあとはダメなんだ?」
くちびるを離した将吾さんが怪訝な顔をする。
「江戸時代の花魁でも、カラダは開けるけど口を吸うのはイヤだっていうじゃないか」
——どんなたとえだ?
でも、そう言っといてキスしてやれば、単純な客は舞い上がる、っていう娼婦の「手練手管」って説もあるけどね。
「なんか理由があるんだろ?……言えよ、彩乃」
わたしはぷいっ、と横を向く。
——言えるような「理由」なら、とっくの昔に言ってる。
「おれ、結構上手いって何人からも言われたぞ。人工授精とか言う前に、一回、試してみろよ」
——どんな自慢だ?それに、エッチの「お試し」なんて、聞いたことないし。
それに、今まで何人とどんなことしてきたのよっ⁉︎ なんか、ムカつくっ!
拗ねてるみたいに、しばらく黙ってみた。
将吾さんも、もうなにも言わなかった。ただ、わたしに注がれる視線だけはがっつり感じる。
そのうち、瞼が重くなってきて、なんだか眠気が襲ってきた。自分が襲われそうになってる、ってときなのに……
——そういえば……最近、あんまり眠れてなかったんだよなぁ。
「……おい、おまえ、静かだなって思ったら、もしかして……寝てないか?」
将吾さんの呆れ果てた声が聞こえる。
「おまえっ、おれが寝てる女には手を出さないって勝手に思ってるだろっ?」
わたしが本格的に寝そうなので、ちょっと焦ってきたようだ。
——思ってないって。
だって、先刻からわたしの腿の辺りにあなたの硬いモノが当たってますもん。貞操の危機なのは重々承知しております。
——だけど、眠たいの。
すると、将吾さんがなにか言って、くちびるにちゅっ、とキスをしてきた。日本語でも英語でもない言葉のようだった。
——スウェーデン語かなぁ。まぁ、どうでもいいや。
わたしはひさしぶりにぐっすり眠れそうだ。
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