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Chapter 8
彼に夜這いをかけられてます ②
しおりを挟む将吾さんはきれいにベッドメイキングされたベッドスプレッドとブランケットを乱暴に引き剥がしたわりには、わたしをシーツの上に穏やかに横たわらせた。
「……茂樹に楽させたいんだったら、おまえがもっとおれの秘書らしくなれ。でないと、あいつはずっと秘書室長のままだ」
わたしの上に馬乗りになった将吾さんが言った。
「えっ、わたし、寿退職するんじゃないの?」
将吾さんを見上げて訊いた。
「専業主婦になりたければなってもいいぞ。でも、この家でなにをするんだ?たぶん、一日中ヒマだぞ?」
——それはもっともなことだ。ここの家事はすべてハウスキーパーさんたちがやってくれている。
「茂樹はC大の法科大学院を出て司法試験に合格し、弁護士資格を持っている」
わたしは驚いて目を丸くする。
「おれとしては、早くあいつの能力を活かせる社外との契約関係や社内でのコンプライアンス関係を統括する役職に就いてもらいたいんだ」
——確かにそうよね。
わたしは将吾さんの下で深く肯いていた。
「おまえ、そろそろおれについて得意先へ行くか?」
「だったら、髪染めないといけないね」
わたしは自分の派手なオリーブブラウンの髪を横目で見た。
「……バカか……絶対、染めるんじゃねえぞ」
将吾さんがわたしの髪を右手でやさしく梳く。
「将吾さんはわたしのこと、怒ってたんじゃなかったの?」
なんだか、なし崩し的になってるような気がしてきた。
——わたしのあの「提案」に対しては、どう思ってるのだろう?
「……彩乃、うちに住むために来たってことは、おれのものになる気になったってことだろ?」
将吾さんはわたしの質問に答えることなく、とうとう、のしかかってきた。彼の身体の重みがわたしの身体に伝わる。
「とっとと、おれのものになれ」
将吾さんの声が耳元から聞こえる。
思わず、ぞくり、となる。
「……おまえ、痩せただろ?」
——あら、今朝まで一緒に暮らしてきた両親も弟も、まったく気づいてなかったのに……
実は、結納のあとの食事会だけじゃなくて、ここのところ、なんだか食欲がなかったのだ。痩せたといっても、二キロくらいのものだが。
「もう痩せるなよ。これ以上、この胸がささやかになられると困る」
将吾さんにのしかかられてるので、服を通して互いの胸が密着していた。
——そっちかっ!寄せて上げて、トリ◯プだったらCカップなのにっ!!
「あーっ!」
わたしは思わず声をあげた。
——ノーブラだったっ!寄せて上げてのトリ◯プを着けていなかったっ!一生の不覚だっ!!
「おまえ……もうちょっと色っぽい声出せよ」
将吾さんは呆れた声でつぶやき、わたしのくちびるを自分のくちびるで塞いだ。
わたしたちが「初心に返って」よそよそしくなってしまった直前、会社のプライベートルームでして以来のキスだった。
——ダメだ。……やっぱり、このキスに弱い。
わたしは将吾さんの首の後ろに手を回した。
彼のキスがどんどん深くなり、わたしたちはひさしぶりに相手の舌をぞんぶんに味わう。
自然と、わたしの片方の手が将吾さんの洗いたてのさらさらした髪をかき上げていた。
彼のくちびるがわたしの首筋へと移っていく。
「……んぅ……っ」
つい、艶めいた声が漏れる。
——まずい、まずい、まずい。
わたしの理性が、脳内で警鐘を鳴らす。
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