政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
53 / 128
Chapter 8

彼に夜這いをかけられてます ②

しおりを挟む

 将吾さんはきれいにベッドメイキングされたベッドスプレッドとブランケットを乱暴に引き剥がしたわりには、わたしをシーツの上に穏やかに横たわらせた。

「……茂樹にらくさせたいんだったら、おまえがもっとおれの秘書らしくなれ。でないと、あいつはずっと秘書室長のままだ」
 わたしの上に馬乗りになった将吾さんが言った。

「えっ、わたし、寿退職するんじゃないの?」
 将吾さんを見上げて訊いた。

「専業主婦になりたければなってもいいぞ。でも、この家でなにをするんだ?たぶん、一日中ヒマだぞ?」
 ——それはもっともなことだ。ここの家事はすべてハウスキーパーさんたちがやってくれている。

「茂樹はC大の法科大学院を出て司法試験に合格し、弁護士資格を持っている」

 わたしは驚いて目を丸くする。

「おれとしては、早くあいつの能力を活かせる社外との契約関係や社内でのコンプライアンス関係を統括する役職に就いてもらいたいんだ」

 ——確かにそうよね。
 わたしは将吾さんの下で深く肯いていた。


「おまえ、そろそろおれについて得意先へ行くか?」

「だったら、髪染めないといけないね」
 わたしは自分の派手なオリーブブラウンの髪を横目で見た。

「……バカか……絶対、染めるんじゃねえぞ」
 将吾さんがわたしの髪を右手でやさしく梳く。

「将吾さんはわたしのこと、怒ってたんじゃなかったの?」

 なんだか、なし崩し的になってるような気がしてきた。

 ——わたしのあの「提案」に対しては、どう思ってるのだろう?


「……彩乃、うちに住むために来たってことは、おれのものになる気になったってことだろ?」

 将吾さんはわたしの質問に答えることなく、とうとう、のしかかってきた。彼の身体からだの重みがわたしの身体に伝わる。

「とっとと、おれのものになれ」

 将吾さんの声が耳元から聞こえる。
 思わず、ぞくり、となる。

「……おまえ、痩せただろ?」

 ——あら、今朝まで一緒に暮らしてきた両親も弟も、まったく気づいてなかったのに……

 実は、結納のあとの食事会だけじゃなくて、ここのところ、なんだか食欲がなかったのだ。痩せたといっても、二キロくらいのものだが。

「もう痩せるなよ。これ以上、この胸がささやかになられると困る」
 将吾さんにのしかかられてるので、服を通して互いの胸が密着していた。

 ——そっちかっ!寄せて上げて、トリ◯プだったらCカップなのにっ!!

「あーっ!」
 わたしは思わず声をあげた。

 ——ノーブラだったっ!寄せて上げてのトリ◯プを着けていなかったっ!一生の不覚だっ!!

「おまえ……もうちょっと色っぽい声出せよ」

 将吾さんは呆れた声でつぶやき、わたしのくちびるを自分のくちびるで塞いだ。

 わたしたちが「初心に返って」よそよそしくなってしまった直前、会社のプライベートルームでして以来のキスだった。

 ——ダメだ。……やっぱり、このキスに弱い。

 わたしは将吾さんの首の後ろに手を回した。

 彼のキスがどんどん深くなり、わたしたちはひさしぶりに相手の舌をぞんぶんに味わう。

 自然と、わたしの片方の手が将吾さんの洗いたてのさらさらした髪をかき上げていた。
 彼のくちびるがわたしの首筋へと移っていく。

「……んぅ……っ」
 つい、艶めいた声が漏れる。

 ——まずい、まずい、まずい。

 わたしの理性が、脳内で警鐘を鳴らす。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

処理中です...