政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
51 / 128
Chapter 8

とりあえず、身ひとつで参ります ②

しおりを挟む
 
 夕食は、一階のダイニングルームでこの家で働く人たちと一緒にいただく。
 みんな同じメニュー——今日はビーフシチューだ——を食べる様子は、将吾さんが言うようにまさに「大家族」だ。

 確かに、中央にでーんと据え置かれた十数人は座れる古式ゆかしき縦長のテーブルに、家族三人だけというのは寂しいもんね。

「家長席」のお義父とうさまが、今日のゴルフがいかに寒かったかを力説されていた。
 ——わたしは冬場の寒風吹きすさぶゴルフ場なんかには、一ミリたりとも近づきたくない。

「彩乃はゴルフできるんだってな?」
 不意に、将吾さんが余計なことを口走った。

「就職してからはコースどころか、練習場にすら行ってませんので」
 わたしは、ほほほ…と笑っておいた。

「そうか。……じゃあ二月のコンペ、彩乃さんも参加で決まりだな!」
 お義父さまはうれしそうに言った。
「いやぁー『娘』とのゴルフって夢だったんだよなぁ」
 乙女のように頬を染めている。

 ——おい、人の話聞いてるかっ!? しかも、二月のゴルフ場って一年中で一番寒い、厳寒じゃないかっ!

 ユ◯クロの極暖の上にカシミアのセーター、もこもこのパーリ◯ゲイツの揃いのダウンジャケットとダウンスカートとダウンレッグウォーマーで武装して、さらにカイロをお腹と背中に装着しても冷え性なわたしにはまだ寒いんだぞっ。
   お昼にクラブハウスで一杯ひっかけないと、とてもじゃないけど後半回れないんだぞっ!

——冗談じゃないっ。わたしは絶対に行かないからなっ!

「み…みなさんを究極のマナー違反『スロープレイ』にさせてしまいますので、わたしはご遠慮申し上げますわ」
 わたしはもう一度、ほほほ…と笑っておいた。

 そして、心の中で、どうか大雪でゴルフ場がクローズになりますように、と学生時代の礼拝の時間には考えられないほど熱心に、父と子と精霊にお祈りした。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 食後に戻った自分の部屋で、わたしは脱力していた。
 これから「家族」になるとはいえ、「他人」の家に一人だけ放り込まれるのが、これほど気を張るものだとは思わなかった。

 考えてみれば、わたしはこの家では転入生のようなものだ。しかも、クラス替えのない……

 そんなことを考えていたら、自分の生まれ育った家がひたすら恋しくなってきた。
 なので、気分転換にお風呂に入ろう、と思った。

 さすが「迎賓館」だけあって、ベッドルームという名がつくこの部屋には、バスタブとトイレのあるバスルームが併設されていると聞いていた。

 わたしは部屋の左側にある扉を開けようとした。

「……あれ?開かない」
 その扉は押しても引いてもびくともしなかった。

 わたしは反対側の壁を見た。同じような扉がある。そちらへ歩いて行き、扉を開ける。

 すると、こともなげに開いて、猫脚のアンティークなバスタブや、水も使える装飾的な白いドレッサーなどが見えた。ここがバスルームだった。


 まるで高級ホテルのようなアメニティが揃えられた自分専用のバスルームを存分に使ったあと、わたしはベッドルームに戻ってきた。

 もう寝るだけなので、部屋着に着替えている。ユ◯クロだが、もふもふのフリース地の上下で、着心地がいい。しかも、あったかい。

 今日は気が張って疲れたし、明日からは会社もあるし、さぁ、ベッドに入りましょう、と思ったその矢先……

 バスルームとは反対側の、先刻さっきは押しても引いてもびくともしなかった「開かずの扉」から、がちゃがちゃ音がしてくる。

 身構えながら凝視していると、突然扉が開いた。

 ——将吾さんがそこにいた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

処理中です...