48 / 128
Chapter 8
破談の危機なのに結納やってます ②
しおりを挟むとうとう、お仲人さんが、
「これにて、めでたく御両人の御婚約が成立しました」
と、締めの言葉を言ってしまった。
——ちょっとっ!婚約が正式に決定しちゃったじゃんっ!!
そして、なにかとお忙しいお仲人のご夫妻はこのあとの食事会を辞退され、お帰りになってしまった。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
その後、ホテルの中のミシュラン星が輝くフレンチレストランで、両家揃っての会食となった。
そのレストランへの移動中、わたしはお義母さまに自分でラッピングしたプレゼントをそっと渡した。
去年のクリスマスに、将吾さんのお宅にお邪魔した際に、わたしはなにも持たず行ったことが気がかりだった。
将吾さんがお正月にうちに手土産で持ってきた、勘◯衛のテリーヌ・オ・ショコラがうちの家族に——「海洋派」の裕太ですら——大好評だったからである。
短いおつき合いだったけれど、美しくて聡明で、そして仕事と家庭を両立させてきた彼女は、同じ女性として尊敬に値する存在だと思う。
だから、今日でお会いするのは「最後」になるとは思うけれど、わたしなりの出会えてよかったという「感謝の気持ち」を形で表したかった。
お義母さまとわたしは最後尾を歩いていた。
彼女が開けていい?と目で促す。わたしは肯いた。
ラッピング、といっても巾着にリボンで結んだだけなので、歩いている最中でも簡単に中を見られる。
彼女が中から取り出したのは、無◯良品のCDだった。もちろん、スウェーデン・トラディショナルの曲が収録された「BGM8」だ。
「ありがとう!……これは、だれのCDかしら?」
彼女は表情豊かに目を丸くして尋ねた。
「それは、聴いてみてのお楽しみです」
わたしはいたずらっ子っぽく笑った。
——たぶん……将吾さんみたいだっただろう。
お互いの両親たちは、大仰な日本古来の「儀式」を終えて肩の力が抜けたのか、うれしそうに会話を弾ませていた。
打ち解けて話す彼らとは対照的に、将吾さんとわたしの表情が堅く見えても、それは緊張のせいだと思ったようだった。
わたしは将吾さんの「最後通牒」を今か今かと待ち受ける身なので、はっきり言ってどんなに美味しい料理であろうと、まったく食欲はなかった。
でも、これが将吾さんとの「最後の晩餐」——厳密に言うとランチだが——になるのだ。
初めて会ったお見合いのときにはほとんど食事に手をつけられなかったけれど、たとえとことん嫌われた末に婚約破棄されるのだとしても、実は美味しいそうに食べる女だったんだ、と思ってもらいたかった。
わたしは一生懸命食べた。
そして、表面上は和やかに食事を終え、めいめいコーヒーか紅茶を飲んでいるときだった。
不意に、将吾さんが切り出した。
「……折り入って、彩乃さんとのことで、お話があります」
——とうとう、来た。
わたしは、覚悟を決めた。
0
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる