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Chapter 8
破談の危機なのに結納やってます ②
しおりを挟むとうとう、お仲人さんが、
「これにて、めでたく御両人の御婚約が成立しました」
と、締めの言葉を言ってしまった。
——ちょっとっ!婚約が正式に決定しちゃったじゃんっ!!
そして、なにかとお忙しいお仲人のご夫妻はこのあとの食事会を辞退され、お帰りになってしまった。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
その後、ホテルの中のミシュラン星が輝くフレンチレストランで、両家揃っての会食となった。
そのレストランへの移動中、わたしはお義母さまに自分でラッピングしたプレゼントをそっと渡した。
去年のクリスマスに、将吾さんのお宅にお邪魔した際に、わたしはなにも持たず行ったことが気がかりだった。
将吾さんがお正月にうちに手土産で持ってきた、勘◯衛のテリーヌ・オ・ショコラがうちの家族に——「海洋派」の裕太ですら——大好評だったからである。
短いおつき合いだったけれど、美しくて聡明で、そして仕事と家庭を両立させてきた彼女は、同じ女性として尊敬に値する存在だと思う。
だから、今日でお会いするのは「最後」になるとは思うけれど、わたしなりの出会えてよかったという「感謝の気持ち」を形で表したかった。
お義母さまとわたしは最後尾を歩いていた。
彼女が開けていい?と目で促す。わたしは肯いた。
ラッピング、といっても巾着にリボンで結んだだけなので、歩いている最中でも簡単に中を見られる。
彼女が中から取り出したのは、無◯良品のCDだった。もちろん、スウェーデン・トラディショナルの曲が収録された「BGM8」だ。
「ありがとう!……これは、だれのCDかしら?」
彼女は表情豊かに目を丸くして尋ねた。
「それは、聴いてみてのお楽しみです」
わたしはいたずらっ子っぽく笑った。
——たぶん……将吾さんみたいだっただろう。
お互いの両親たちは、大仰な日本古来の「儀式」を終えて肩の力が抜けたのか、うれしそうに会話を弾ませていた。
打ち解けて話す彼らとは対照的に、将吾さんとわたしの表情が堅く見えても、それは緊張のせいだと思ったようだった。
わたしは将吾さんの「最後通牒」を今か今かと待ち受ける身なので、はっきり言ってどんなに美味しい料理であろうと、まったく食欲はなかった。
でも、これが将吾さんとの「最後の晩餐」——厳密に言うとランチだが——になるのだ。
初めて会ったお見合いのときにはほとんど食事に手をつけられなかったけれど、たとえとことん嫌われた末に婚約破棄されるのだとしても、実は美味しいそうに食べる女だったんだ、と思ってもらいたかった。
わたしは一生懸命食べた。
そして、表面上は和やかに食事を終え、めいめいコーヒーか紅茶を飲んでいるときだった。
不意に、将吾さんが切り出した。
「……折り入って、彩乃さんとのことで、お話があります」
——とうとう、来た。
わたしは、覚悟を決めた。
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