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Chapter 7
私と彼は破談の危機を迎えてます ①
しおりを挟むわたしの髪を撫でる将吾さんの手が、ぴたりと止まった。そして、抱きしめていたわたしをバッと離した。
それから、わたしの顔をまじまじと見る。
「……はぁ!?」
口をあんぐり開けてマヌケな顔をしている。
この人がこういう変顔をしているのを、どこかで見たことがあったな。
——そうだ。お見合いの日だ。
わたしが早々に退出したときに、将吾さんはこんな顔をしていたのを思い出した。
なんだかおかしくなって……思わず、くすっ、と笑ってしまった。
——それが、いけなかった。
将吾さんはわたしに「説明」する間も与えることなく、ものすごい勢いで怒って帰ってしまった。
——もしかしたら……破談かな?
やっぱり、いくら「政略結婚」といえども……いや、政略結婚だからこその……わたしからの「提案」なんだけど……
でも、いきなり「人工授精」で子どもをもうけるのは、抵抗あるのかなぁ……?
——わたしは、ただ……海洋にさせてしまった思いを、将吾さんにはさせたくなかっただけ、なのに。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
お正月明けの初日……つまり、新年一発目の日なのだが、副社長の機嫌がとんでもなく悪かった。
もちろん、社外の取引先に対してはつつがなく新年のご挨拶が執り行われているようだ。
だが、島村さんに刻まれ続ける眉間のシワが果たして元に戻るかどうかは微妙だ。
「……どうしちゃったんでしょうね?副社長」
七海ちゃんが顔を曇らせる。
副社長室だけでなく、グループ秘書の二人も余波をぶっ被ってるらしい。
「彩乃、あなた……なんかやらかした?」
誠子さんがじろり、とわたしを見る。
——何気にカンが冴えるわ、この人。
ま、わたしのせいなのだけれど……
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
終業後、気が重いまま、いつものように副社長のプライベートルームへ入る。
カードキーで解錠してドアを開いたとたん、副社長——将吾さんから腕を持たれてぐいっ、と中へ引っ張り込まれた。
すぐさま抱きしめられて、くちびるを塞がれる。そして、息ができないほどの、激しいキスに曝された。
まるで、今の将吾さんの気持ちをぶつけてくるような、そんなくちづけだった。
わたしも彼の思いに応えようとしたけれど、だんだん頭がくらくらしてきた……酸欠だ。
「……ぅんはっ」
わたしはなんとかくちびるをずらして、金魚のように、ぱくっ、と息を吸う。
将吾さんはわたしを離れさせないようにがっちりホールドして、腕に込めた力を緩めない。
片手でわたしのシニヨンにした髪を乱暴に解き、ばらばらっと背中に降らせる。
ようやく、将吾さんのくちびるが離れた。
さすがに彼の息も上がっていた。
そして、ライオンのように広がったわたしの髪を、両手で荒々しく搔き上げ、
「……おれと、こんなキスができるってのに」
そう言って、わたしのヘイゼルの瞳をせつなげに見つめた。
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