政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
44 / 128
Chapter 7

私のお部屋に引っ張り込まれてます ④

しおりを挟む
 
「ところで……おまえ、なんでこんな曲のCD持ってるんだ?」

 くちびるを離した将吾さんが、突然訊いた。
 彼から香ってくるのが、いつの間にかフローラル系の爽やかで繊細な匂いになっていた。

先刻さっきから流れてるのは、みんなスウェーデンの曲だろ?今、流れてる歌は♪Den blomstertid nu kommerでスウェーデンの国民歌と言われるものだ」
 カフェ・オ・レ色の瞳が、すごく驚いている。

 わたしは「無◯のね、お店の中で流れてる曲なの」と説明した。

 無◯良品の店内で流れている音楽は、無◯が企画し、世界各国の地元のアーティストが協力して、現地でCDが製作されている。そのCDはもちろん無印で販売されている。しかも、一枚千円という破格のリーズナブルさなのだ。

 だからわたしは、地域ごとにわかれたCDの中で、アイリッシュケルトやハワイアンや中国の古楽器演奏などのバージョンを何枚か購入していた。
 その中にたまたまスウェーデン・トラディショナルが収められた「BGM8」があったので、流してみたのだ。

 すると、将吾さんがこの曲の歌詞とおおまかな意味を教えてくれた。

「スウェーデンとか北欧の人たちって、日本人のわたしたちが考えられないほど、春っていうか夏が待ち遠しいんでしょ?……そういうのがあふれてる歌だね」
 わたしはしみじみ言った。

「極夜の冬は昼過ぎには暗くなるからな。鬱陶しいぞ。統計では自殺者も増えるみたいだし。その反動で白夜の夏至祭は、びっくりするほど開放的になる。別の意味で厄介になるけどな」
 将吾さんは顔をしかめた。

「ABBAの♪Summer Night Cityなんかの歌詞も、白夜に弾けちゃってすごいもんね」
 同じスウェーデンの男女四人組の歌を思い出した。

「あぁ……夜中に公園でmake loveセックスして、昼間は疲れて眠りこける歌な」

 ——歌詞の一部だけを抜き出すな。


「……ところで」
 将吾さんはわたしの顎をくいっ、と持ち上げた。

 ——あれ?……また、彼の香りが変わっている。
 今度はレザー系の荒々しい、なんだかドキドキさせるセクシーな匂いだ。

「公園で、とは言わないが……おれたちはいつ、キスから先に進めるんだ?」

 将吾さんのカフェ・オ・レ色の瞳から、色気がダダ漏れてる。

 ——ま、まずい。話があらぬ方向に向かってしまった。

 あれから、終業後に毎日「副社長のプライベートルーム」でわたしはキスを「補充」させられていた。

 プライベートルームは簡易なベッドのため、図体のデカい将吾さんだけでもかなり窮屈そうなので、わたしは押し倒されることなく、なんとか貞操を守れていたのだが……今、この部屋の奥には、セミダブルのベッドがある。

「ちょ…ちょっと……まだ……」

 わたしは後ずさりする。

「大丈夫だ、おれに任せればいい」

 将吾さんは、そんなわたしのことなどお構いなしに間を詰めてくる。

「それに、おれは胸の大きさなどは気にしない」

 ——し、失礼なっ!

 たぶん、抱きしめたときに勝手に、わたしの胸がささやかなんだろうと思ったのかもしれないが、寄せて上げてトリンプだったらCカップだから!

「安心しろ。もし小さければ、おれが揉んでそれなりにしてやる」
 ——だから、トリ◯プだったらCカップだってばっ!

 やっぱり…そろそろ…ちゃんと…言わなければ。

「あ…あのね……将吾さん……お願いがあるの」

 とうとう、将吾さんがわたしを捕まえた。
 ふわりと抱きしめ、ハーフアップにしたわたしの髪をやさしく撫でる。どうもこの人は、髪を下ろした方が好みらしい。

 ——あっ……また香りが違う。
 今度は、甘ったるい濃厚なバニラの香りが彼を包んでいた。

「なんだ?……やってもらいたい体位でもあるのか?」
 将吾さんが耳元でささやく。

 ——先刻から、な、なにを言ってんのよっ。この真っ昼間にっ!

「リクエストすれば善処するぞ」

 ——企画書の決済じゃないんだからっ。

「真面目な話です」

 わたしは将吾さんの腕の中で言った。

「わたしはあなたの子どもをちゃんと産みます」

 将吾さんはわたしを抱きしめる腕に力を込めた。わたしの髪を撫でる手が、一層やさしくなる。

 そして、心を決めて告げた。

「……ただし、人工授精で産みたいのです」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...