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Chapter 5
彼のおうちでクリスマスします ④
しおりを挟む「……安心したわ」
——は?どこがでしょうか?
「だって将吾、あなたに対してぞんざいな態度なんだもの」
——はい?
お義母さまは、将吾さんがいる方に目を遣った。
将吾さんは島村さんとわかばさんと喋っていて、わかばさんに対して例の蕩けるチーズならぬ「笑顔」を見せている。
「あの子、一人っ子の人見知りでね。しかも、小さい頃から、外国と日本を行ったり来たりしてたでしょう?わたしもそうだったんだけど、どの国に行っても余所者な気がして落ち着けなくてね。なかなか安心して人に心を開けられないの。……将吾、出会って間もないあなたにもう心を許してるわ。あなたのこと、同性の友達並みにぞんざいに扱っても大丈夫だ、って安心してる。女の子に対してはいつも紳士的なあの子が、そんなふうな扱いをするのを初めて見たわ」
お義母さまはやわらかく微笑んだ。
TOMITAの北欧家具を扱う子会社の社長をしている彼女は、世界中を駆け回るバリバリのキャリアウーマンだそうだ。
だけど、今は完全に「母の顔」をしていた。
——いやいやいや。わたしのことを「女の子」として見ていない証拠じゃないでしょうか?
「でも……覚悟しといてよ」
お義母さまはニヤリと笑った。
「あいつの執着心と独占欲は鬱陶しくて、めんどくさいわよー」
——そういえば、「さそり座の男」だったな。
「ほしいと思って、一旦手に入れたものは、絶対に、手放さないから」
ふふふ…と楽しそうにお笑いになる。
「だから、将吾がなにを言おうと気にしないで」
わたしはとりあえずこっくりと肯いておいた。波風は立たせたくない派なので……
「それからね。わたしは、お見合いのときのお着物、とってもあなたに似合っていて素敵だと思ったわ。今日だって、あなたのあまりの綺麗さに、みんな目を見開いてたのよ」
そして、パチンとウィンクした。さすがスウェーデンの血を引いているだけあって、不自然さはまるでなく、すこぶるカッコいい。
「自分が似合うものに、自信を持ちなさい」
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜
「……なに話してたんだよ?」
いつの間にか、ふてくされた顔で将吾さんが立っていた。
「あなたが小さい頃、わたしが仕事で外国に行かなくちゃならなかったとき、『Mom,don’t leave me alone!〈ママ、ボクをひとりぼっちにして置いてかないで!〉』って言って、わたしにしがみついて大泣きしたこととかよ」
お義母さまはしれっと言った。
わたしはなにかの折に使えるな、と黒い笑みを浮かべた。
「な…な…なに言ってんだよっ!? かあさん!」
将吾さんは逆上した。
「『かあさん』じゃなくて『マイヤさん』よっ」
お義母さまが麗しいお顔を顰める。
「う、うるせぇっ!」
将吾さんはわたしの腕をがしっ、と掴んで、
「おい、彩乃、ちょっと来いっ!」
ダイニングルームの外へ引っ張って行く。
「将吾、彩乃さんをどこへ連れて行く?おれも話したかったのに……」
社長の声がだんだん遠ざかっていく。
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