政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
29 / 128
Chapter 5

彼のおうちでクリスマスします ④

しおりを挟む

「……安心したわ」

 ——は?どこがでしょうか?

「だって将吾、あなたに対してぞんざいな態度なんだもの」

 ——はい?

 お義母さまは、将吾さんがいる方に目を遣った。

 将吾さんは島村さんとわかばさんと喋っていて、わかばさんに対して例のとろけるチーズならぬ「笑顔」を見せている。

「あの子、一人っ子の人見知りでね。しかも、小さい頃から、外国と日本を行ったり来たりしてたでしょう?わたしもそうだったんだけど、どの国に行っても余所者よそものな気がして落ち着けなくてね。なかなか安心して人に心を開けられないの。……将吾、出会って間もないあなたにもう心を許してるわ。あなたのこと、同性の友達並みにぞんざいに扱っても大丈夫だ、って安心してる。女の子に対してはいつも紳士的なあの子が、そんなふうな扱いをするのを初めて見たわ」

 お義母さまはやわらかく微笑んだ。
 TOMITAの北欧家具を扱う子会社の社長をしている彼女は、世界中を駆け回るバリバリのキャリアウーマンだそうだ。
 だけど、今は完全に「母の顔」をしていた。

 ——いやいやいや。わたしのことを「女の子」として見ていない証拠じゃないでしょうか?

「でも……覚悟しといてよ」
 お義母さまはニヤリと笑った。

「あいつの執着心と独占欲は鬱陶しくて、めんどくさいわよー」

 ——そういえば、「さそり座の男」だったな。

「ほしいと思って、一旦手に入れたものは、絶対に、手放さないから」
 ふふふ…と楽しそうにお笑いになる。

「だから、将吾がなにを言おうと気にしないで」

 わたしはとりあえずこっくりと肯いておいた。波風は立たせたくない派なので……

「それからね。わたしは、お見合いのときのお着物、とってもあなたに似合っていて素敵だと思ったわ。今日だって、あなたのあまりの綺麗さに、みんな目を見開いてたのよ」

 そして、パチンとウィンクした。さすがスウェーデンの血を引いているだけあって、不自然さはまるでなく、すこぶるカッコいい。

「自分が似合うものに、自信を持ちなさい」


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜


「……なに話してたんだよ?」

 いつの間にか、ふてくされた顔で将吾さんが立っていた。

「あなたが小さい頃、わたしが仕事で外国に行かなくちゃならなかったとき、『Mom,don’t leave me alone!〈ママ、ボクをひとりぼっちにして置いてかないで!〉』って言って、わたしにしがみついて大泣きしたこととかよ」
 お義母さまはしれっと言った。

 わたしはなにかの折に使えるな、と黒い笑みを浮かべた。

「な…な…なに言ってんだよっ!? かあさん!」
 将吾さんは逆上した。

「『かあさん』じゃなくて『マイヤさん』よっ」
 お義母さまが麗しいお顔をしかめる。

「う、うるせぇっ!」
 将吾さんはわたしの腕をがしっ、と掴んで、
「おい、彩乃、ちょっと来いっ!」
 ダイニングルームの外へ引っ張って行く。

「将吾、彩乃さんをどこへ連れて行く?おれも話したかったのに……」

 社長の声がだんだん遠ざかっていく。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

処理中です...