29 / 128
Chapter 5
彼のおうちでクリスマスします ④
しおりを挟む「……安心したわ」
——は?どこがでしょうか?
「だって将吾、あなたに対してぞんざいな態度なんだもの」
——はい?
お義母さまは、将吾さんがいる方に目を遣った。
将吾さんは島村さんとわかばさんと喋っていて、わかばさんに対して例の蕩けるチーズならぬ「笑顔」を見せている。
「あの子、一人っ子の人見知りでね。しかも、小さい頃から、外国と日本を行ったり来たりしてたでしょう?わたしもそうだったんだけど、どの国に行っても余所者な気がして落ち着けなくてね。なかなか安心して人に心を開けられないの。……将吾、出会って間もないあなたにもう心を許してるわ。あなたのこと、同性の友達並みにぞんざいに扱っても大丈夫だ、って安心してる。女の子に対してはいつも紳士的なあの子が、そんなふうな扱いをするのを初めて見たわ」
お義母さまはやわらかく微笑んだ。
TOMITAの北欧家具を扱う子会社の社長をしている彼女は、世界中を駆け回るバリバリのキャリアウーマンだそうだ。
だけど、今は完全に「母の顔」をしていた。
——いやいやいや。わたしのことを「女の子」として見ていない証拠じゃないでしょうか?
「でも……覚悟しといてよ」
お義母さまはニヤリと笑った。
「あいつの執着心と独占欲は鬱陶しくて、めんどくさいわよー」
——そういえば、「さそり座の男」だったな。
「ほしいと思って、一旦手に入れたものは、絶対に、手放さないから」
ふふふ…と楽しそうにお笑いになる。
「だから、将吾がなにを言おうと気にしないで」
わたしはとりあえずこっくりと肯いておいた。波風は立たせたくない派なので……
「それからね。わたしは、お見合いのときのお着物、とってもあなたに似合っていて素敵だと思ったわ。今日だって、あなたのあまりの綺麗さに、みんな目を見開いてたのよ」
そして、パチンとウィンクした。さすがスウェーデンの血を引いているだけあって、不自然さはまるでなく、すこぶるカッコいい。
「自分が似合うものに、自信を持ちなさい」
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜
「……なに話してたんだよ?」
いつの間にか、ふてくされた顔で将吾さんが立っていた。
「あなたが小さい頃、わたしが仕事で外国に行かなくちゃならなかったとき、『Mom,don’t leave me alone!〈ママ、ボクをひとりぼっちにして置いてかないで!〉』って言って、わたしにしがみついて大泣きしたこととかよ」
お義母さまはしれっと言った。
わたしはなにかの折に使えるな、と黒い笑みを浮かべた。
「な…な…なに言ってんだよっ!? かあさん!」
将吾さんは逆上した。
「『かあさん』じゃなくて『マイヤさん』よっ」
お義母さまが麗しいお顔を顰める。
「う、うるせぇっ!」
将吾さんはわたしの腕をがしっ、と掴んで、
「おい、彩乃、ちょっと来いっ!」
ダイニングルームの外へ引っ張って行く。
「将吾、彩乃さんをどこへ連れて行く?おれも話したかったのに……」
社長の声がだんだん遠ざかっていく。
0
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる