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Chapter 5
彼のおうちでクリスマスします ③
しおりを挟むリビングルームだと思っていた部屋は、ダイニングルームだった。
中央にでーんと据え置かれた古式ゆかしき縦長のテーブルの上には、わが国を代表する一流の老舗ホテルからケータリングされた料理が所狭しと並べてられていた。
そして、縦長のテーブルの奥の「家長」席には、将吾さんのお父さん—— TOMITAホールディングスの社長が座っていらした。
「……改めまして、朝比奈 彩乃でございます。先日はお見合いの席で失礼いたしました。本日は、お招きにあずかりありがとうございます。不躾にもなにも持参せず参りまして、誠に申し訳ありません」
わたしは深々と頭を下げた。手土産一つ持ってこなかったことが猛烈に恥ずかしかった。
——わたしを実家に連れ帰ることを言わなかった将吾さんを、末代まで呪ってやるっ。
そうすると、お義父さまとお義母さまも末代まで祟ってしまうことになるけれども、致し方ない。
「どうせ将吾の不手際だろう?……堅苦しい挨拶はいいから、腹も減ったことだし、早くみんなで食べようじゃないか」
落ち着いた大人の魅力あふれる社長が、おおらかに笑った。母親似の将吾さんだが、笑った顔には父親の面影が見える。
この家で働く人たちも含めて全員が席に着くと、島村さんが慣れた手つきでシャンパンの栓をポン、と抜いて、フルートグラスに注いでいく。
先刻の気持ちを落ち着けてここに臨んだのだろうか、平然と見えるわかばさんがそのグラスをみんなにサーブする。
全員の手に渡ったら、社長のリードで乾杯!となる。左手でフルートグラスを掲げたら、薬指のピヴォワンヌがアール・デコのシャンデリアの光を吸って、ギラリと輝いた。
クリスマスの一家の長の最重要ミッションである七面鳥の切り分けを社長が行い、静枝さんがみんなに給仕する。
お義母さまが、お手製のジンジャークッキーのpepparkakaを指差しておっしゃる。
「毎年、これだけは欠かさないのよ」
スウェーデンのクリスマスの定番らしい。
わたしがケータリングの真牡蠣の貝殻を器にした牡蠣グラタンを食べていたら、隣で色とりどりの具材を乗せたカナッペをおつまみにしてシャンパンを呑んでいた将吾さんが言った。
「彩乃、これがうちのクリスマス……Julだ」
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜
将吾さんが席を立ったのをきっかけに、お義母さまが声をかけてきた。
「……彩乃さん、楽しんでる?」
「は、はい……お料理、とっても美味しいです」
海老と野菜のアラビアータをガレットで包んだものを、わたしは美味しくいただいていた。さすが、うちの新年パーティでも毎年利用しているホテルのケータリングだ。
「ふふふ……まさか、こんなに急に一人息子の結婚が決まるとは思わなかったわ」
——お義母さま、わたくしもでございます。
「しかも、お見合いで、だなんて。わたしと夫は熱烈な恋愛結婚だったから」
——も、申し訳ありません。政略結婚で。
「実は、ちょっと心配だったんだけど」
——そうでございましょうとも……
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