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Chapter 4
聖なる夜に初デートします ④
しおりを挟むわたしはキャリーバッグから、シ◯ラのウールのニットワンピを取り出した。バッグに入れていてもシワになりにくいと思って選んだ。
身体のラインにぴったり沿った黒地のニットワンピは、スカートにあたる部分に大胆な赤の大きな幾何学模様が施されている。
黒のタイツにル◯タンの黒いヒールを履く。ル◯タンの底の赤と、シ◯ラのワンピの模様の赤とを合わせてみた。
髪はブローする時間がないので、ひっつめ髪をほどいて、ふんわりとハーフアップにした。背中まで伸びたオリーブブラウンのウェーブした髪が、黒のニットワンピの上にこぼれる。
手早くメイクを直す。やりすぎると同じ銀座でもクラブの方にご出勤、となるので注意だ。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜
襟にファーが付いたアクア◯キュータムの黒いカシミアコートを手に持ち、マイクロモノグラムのキャリーバッグを引いて、わたしはプライベートルームの扉を開けた。
突然、目の前で、抱き合っている男女の姿が、目に入ってきた。
将吾さんとグループ秘書の大橋さんだった。
—— 既視感?
しかし、前と違っているのは、将吾さんも大橋さんも、わたしを見て目を見開いて驚いていることだ。
あのときの将吾さんの余裕な冷静さも、大橋さんの余裕な妖艶さも、まったく感じられなかった。
「……彩乃」
態勢を整えて、口火を切ったのは、将吾さんだった。
「着替えはおれの部屋に置いとけ、って言ったじゃないか」
——はぁ? わたし、そんなこと言われてませんけど?
将吾さんはわたしからキャリーバッグを引き取った。
そして、わたしが手にしていたプライベートルームのカードキーをひょいと奪って、今わたしが施錠したばかりの部屋をピッと解錠した。
それから、用済みになったカードキーをわたしに返して、今度はその手をわたしの腰に回した。
「……こういうわけだから、大橋、悪いけど君の気持ちには応えられない」
そう言って、わたしをプライベートルームの中に促した。
——なんで、また戻るの?
「政略結婚、ですよね!?」
大橋さんの声が後ろから飛んできた。挑むような声だ。
「わたしの方が朝比奈さんよりも副社長……将吾さんの近くにずっといます」
将吾さんとわたしは、顔だけ大橋さんに向けた。
——だからって、恋や愛が生まれるとは限らないよね?
わたしは大橋さんのおめでたい考えに逆に感心した。
「……政略結婚だったら、好きになっちゃいけない?」
将吾さんは大橋さんをまっすぐに見据えて言った。アーモンド型の瞳がぎらり、と光った。
そして……
「彩乃、せっかくメイクしてんのに、ごめんな」
回されていた腰がぐっ、と引き寄せられ、
——えっ?
と思った瞬間、将吾さんの顔が落ちてきた。
爽やかで、それでいてほんのり甘い、彼のフレグランスの香りとともに……
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