23 / 128
Chapter 4
聖なる夜に初デートします ④
しおりを挟むわたしはキャリーバッグから、シ◯ラのウールのニットワンピを取り出した。バッグに入れていてもシワになりにくいと思って選んだ。
身体のラインにぴったり沿った黒地のニットワンピは、スカートにあたる部分に大胆な赤の大きな幾何学模様が施されている。
黒のタイツにル◯タンの黒いヒールを履く。ル◯タンの底の赤と、シ◯ラのワンピの模様の赤とを合わせてみた。
髪はブローする時間がないので、ひっつめ髪をほどいて、ふんわりとハーフアップにした。背中まで伸びたオリーブブラウンのウェーブした髪が、黒のニットワンピの上にこぼれる。
手早くメイクを直す。やりすぎると同じ銀座でもクラブの方にご出勤、となるので注意だ。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜
襟にファーが付いたアクア◯キュータムの黒いカシミアコートを手に持ち、マイクロモノグラムのキャリーバッグを引いて、わたしはプライベートルームの扉を開けた。
突然、目の前で、抱き合っている男女の姿が、目に入ってきた。
将吾さんとグループ秘書の大橋さんだった。
—— 既視感?
しかし、前と違っているのは、将吾さんも大橋さんも、わたしを見て目を見開いて驚いていることだ。
あのときの将吾さんの余裕な冷静さも、大橋さんの余裕な妖艶さも、まったく感じられなかった。
「……彩乃」
態勢を整えて、口火を切ったのは、将吾さんだった。
「着替えはおれの部屋に置いとけ、って言ったじゃないか」
——はぁ? わたし、そんなこと言われてませんけど?
将吾さんはわたしからキャリーバッグを引き取った。
そして、わたしが手にしていたプライベートルームのカードキーをひょいと奪って、今わたしが施錠したばかりの部屋をピッと解錠した。
それから、用済みになったカードキーをわたしに返して、今度はその手をわたしの腰に回した。
「……こういうわけだから、大橋、悪いけど君の気持ちには応えられない」
そう言って、わたしをプライベートルームの中に促した。
——なんで、また戻るの?
「政略結婚、ですよね!?」
大橋さんの声が後ろから飛んできた。挑むような声だ。
「わたしの方が朝比奈さんよりも副社長……将吾さんの近くにずっといます」
将吾さんとわたしは、顔だけ大橋さんに向けた。
——だからって、恋や愛が生まれるとは限らないよね?
わたしは大橋さんのおめでたい考えに逆に感心した。
「……政略結婚だったら、好きになっちゃいけない?」
将吾さんは大橋さんをまっすぐに見据えて言った。アーモンド型の瞳がぎらり、と光った。
そして……
「彩乃、せっかくメイクしてんのに、ごめんな」
回されていた腰がぐっ、と引き寄せられ、
——えっ?
と思った瞬間、将吾さんの顔が落ちてきた。
爽やかで、それでいてほんのり甘い、彼のフレグランスの香りとともに……
0
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる