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Chapter 4
聖なる夜に初デートします ③
しおりを挟む本日の業務が終わった。
無事、海外の支社はクリスマス休暇に入ったらしい。今日は副社長も定時で上がれるようだ。
PCをシャットダウンし、デスクの上を片付けていたら、島村さんが執務室から出てきた。アメリカ支社のトラブルでは、島村さんもずっと残業が続いていた。
彼のデスクで帰り支度する姿を見て、「お疲れさまでした」と、わたしは労いの気持ちを込めて会釈をした。
「……言い忘れていたのですが」
島村さんがいつもの調子で淡々と言った。
「プライベートルームには始業前は入らない方がいいですよ。副社長が使用されていたら、寝起きがすごく悪いので、烈火のごとく怒って追い出されてしまいますから」
——えっ、そうなの!?
そういえば、初めての朝はものすごーく怖かったな……でも、シャワーを浴びてからはずいぶん機嫌良くなったけれど。
——そうか、あれはシャワーで目が覚めたのね。そして今朝は寝ぼけてたのか、ぼーっとしてましたけど?
「もともと、自分のプライベートな部分に踏み込まれるのを極端に嫌う人ですからね」
「えっ、そうなんですか?」
わたしは目を丸くした。
「ですので、ご注意ください」
島村さんはそう言うと、バーバリーの黒いステンカラーコートをはおり、ココマイスターのブリーフケースを手にした。
それから、失礼します、と一礼して副社長室を出て行った。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜
わたしは執務室のドアをノックした。返事がないので開けると、そこにはだれもいなかった。
そのまま奥のプライベートルームへ向かった。ノックをすると「入れ」と声がしたので、カードキーで解錠してドアを開ける。
そこには、すでに身なりを整え直した副社長——将吾さんがいた。
ダークグレーのヒュー◯・ボスのスーツと、クリスマスを意識した深緑に真紅のレジメンタルタイは、今朝わたしが選んだものだった。
「荷物を置かせてもらってすみません」
わたしはマイクロモノグラムのキャリーバッグのバーを引き出しながら言った。
「『すみません』?」
将吾さんの片眉が上がった。
「荷物を置かせてもらってごめんね」
と、言い直す。
——あぁ、めんどくさい人だ。
「あのねぇ、先刻まで仕事モードだったんだから、急に切り替えるのは大変なのよ」
——そりゃ、あなたはいいわよ。
将吾さんはいつの間にか、仕事でもわたしのことを呼び捨てにするようになっていた。
「文句言ってないで、早く支度しろよ」
将吾さんは腕時計を見ながら言った。ブライ◯リングのトランスオーシャン・クロノグラフ・ユニタイムだ。
「わたし、服を着替えなきゃいけないんだけど?」
彼がここにいたら、今着ているスーツを脱げない。
「どうぞ」
——『どうぞ』って言われてもっ。
「婚約者なんだから、いいだろ?」
——よくないっ。
「結納前だし、婚約指輪もまだ受け取ってないじゃない」
わたしがそう言うと、将吾さんはくくっと笑った。
「わかった。結納の日取りも早めるし、婚約指輪も早く取りに行こう」
将吾さんはソファから立ち上がって、わたしの頭をぽんぽんとした。
「おれをこの部屋から追い出すのは、彩乃が初めてだ」
——えっ、まさか、大橋さんとかをここに連れ込んでるんじゃ……
「もっとも、掃除のおばちゃん以外の女を入れたことないけどな」
将吾さんは愉快そうに笑いながら、自分のプライベートルームから「追い出された」。
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