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Prologue
政略結婚のためにお見合いしてます ③
しおりを挟む「……それじゃ、あとはお若いお二人にお任せしましょうか?」
清香おばさまは朗らかに、お見合い「あるある」の言葉を宣言して、本日のお役御免とばかりに席から立ち上がった。
——おばさまのお席からなら、よくご覧になれますでしょ?あの方、わたくしのこと、まだ飽きもせず、ガン飛ばしまくっていらしてよ?
あぁ、このときほど自分がテレパスだったらなーと思ったことはない。
なのに、非情にもお相手のご両親も——両側だからご子息のお顔がご覧になれないのかもしれないけれど——そして、うちの両親までもが席を立つではないか。
父親が「それでは、また……」とか言って、向こうのご両親に挨拶している。
——パパ、お相手のお顔を見たら「また」なんて無いの、わかるでしょ!?
「彩乃、あちらさまに粗相のないようにね」
——ママ、わたしの母親を何年やってるの?もうお相手にとっては「粗相」だらけなのよっ。
とりあえず、わたしも立ち上がって、この場から辞去される方々に丁寧にお辞儀をした。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
「……あんた、食わねえのかよ?」
目の前の人が言った。
彼も立っている。どうやら、わたしと同じように、辞去する面々に会釈していたようだ。
分厚い底の草履を履いているから一七〇センチを超える身長になっているはずなのに、わたしの目線のずっと上に彼の顔がある。一八五センチはあるのだろう。でも、先刻まで座ってたときにはそんな高身長の威圧感はなかった。
——あ、そうか。胴が短くて脚が長いんだ。
わたしは目の前のテーブルに並べられた、ほとんど手つかずの料理を見ながら思った。
「そのツラなら、たかが見合いごときで緊張なんかしないだろ?」
ガンを飛ばす代わりに、今度は嘲るような目でわたしを見る。
「『キャバ嬢の初詣』かよ、その格好」
——あ、わかった!この人、わたしの外見が気にくわないんだ。
わたしの外見は派手だ。オリーブブラウンの髪色も、ウェーブも、ヘイゼルの瞳も、カラーリングやパーマやカラコンは一切したことがない、ど天然である。加えて、ピンクがかった白い肌に目鼻立ちのハッキリした顔は、よくハーフかクォーターに間違えられる。
中学に入った頃から街を歩けば、芸能事務所のスカウトがひっきりなしに声を掛けてきた。
女子大時代には、出版社からの読者モデルの誘いを断るのにうんざりした。
とりわけ一番イヤだったのは……
この目の前の人のように——中身も派手だと思われることだ。
今まで、派手で自信家で、わたしとつき合えば自慢になると思ってるような男の人ばかり、わたしに近づいてきた。または、わたしも自分と同じようなタイプで「割り切った付き合い」ができると思い込んだ人とか。
わたしの性格は至って「普通」だ。むしろ、地味って言ってもいいくらい。休みの日だって、家にこもる方が気が楽なインドア派なのだ。
だけど、そんなこと、初対面の誤解している人に言っても信じないだろう。
——それに、この調子じゃ、どうせこのお見合いは断られるだろうし……
「本日はお忙しい中、わたくしなんかのためにお越しくださり、ありがとうございました」
わたしは深々とお辞儀をした。
「……それでは、わたくし、失礼いたします。あなたもどうぞお気をつけて、お帰りくださいませ」
そう言って、わたしは高級料亭をあとにした。
なにか、口をあんぐり開けたマヌケな顔が、目に入ってきた気がしないでもないが……
まさかあの斜に構えたイケメンが、そんな変顔をするわけがない。
——気にしないでおこう。
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