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十一段目
逢瀬の場〈伍〉
しおりを挟むそれまで緩慢だった多聞の動きが、次第に敏速になっていく。
「……今日まで堪えしのんできたがゆえ、もう抑えが効かぬ。今日はおまえが堪えてくれ。おまえにとって……しばし、きつうなる」
多聞が苦悶に満ちた顔で呻いた。欲情の火に煽られた目が、狂おしいほど志鶴を求めている。
いきなり、人が変わったかのように、多聞が猛々しく突き上げてきた。
だが、予想に反して、志鶴に激痛はなかった。動くたびに擦れる痛みは依然としてあったが、体内は痺れたようにじんじんとしながらも、多聞の激しい動きをしっかり受け止めていた。
そして、さらに激しさを増す動きの中で、志鶴は悟った。
——あぁ、ようやっと、「夫」が我が身を抱いてくれた。最後に、ようやっと、我が身を「妻」にしてくれた。
たとえ……心の中に他のおなごが棲んでいたとしても。
たとえ……我が身がそのおなごの代わりでしかないとしても。
今、この刹那、旦那さまが、狂ったように激しくその身を沈めているのは……その激しさを全身で受け止めているのは……
梅ノ香でもない、他のだれでもない……
——この「わたくし」だ。
今までに味わったことのない「悦び」が、志鶴の身と心を駆け巡った。
あんなにわだかまっていた「沸々」が、すぅーっと、胸から消えていく……
志鶴は、身も、心も……おのれが持つすべてのものを……
——目の前のたった一人の「夫」に、投げ出していた。
「……おまえ、あの同心に、身体は許してなかったのだな」
多聞は、心底ほっとした顔をしていた。
傍らで事切れたように眠る志鶴を、この上もなく愛しく見つめながら、その愛らしい頬を撫でる。かわいそうに、涙の跡が幾筋もあった。
多聞が我を忘れて、夢中になって、すっかり満足して崩れ果てるまで、志鶴には無理をさせてしまったからだ。
「目方が戻らぬ前に、思うままに抱いてしもうたな」
多聞は、志鶴のか細い身体をせつなげに見つめた。
「すまぬことをした。今の今まで……生娘でござったというのにな」
かような呟きとは裏腹に、次第に口元が緩んでいく。
そして、いつしか満足げな顔になっていた。うれしくて、堪らなかったのだ。
多聞はおのれだけが知る、我が妻の一糸纏わぬ身体を引き寄せ、きゅううぅっと抱きしめた。
それでも、志鶴は目覚めることはなかった。すっかり力の抜け切った四肢を投げ出したまま、夫のされるがままになっていた。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
その日の晩、多聞は当番方の宿直の御役目のため、家を出て奉行所へ行った。
そして翌朝、志鶴は多聞が御役目から帰ってくる前に、実家の佐久間の家に戻って行った。
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