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Last Chapter
④
しおりを挟む紗香はふっくら笑いながら、しっかりと力強く、肯いた。
こうして「言質」を取ったおれは、恥ずかしかって嫌がる紗香を、
「おれをもう一度愛してくれて、『嫁』らしいこともしてくれるんだろっ?」
引きずるようにして豪華なバスルームへ連れ込み、めいっぱい「嫁としての務め」を果たしてもらった。
そのあとのキングサイズのベッドの上でも、日本の古式ゆかしい伝統に則った大胆な体位で、おれも「夫としての務め」を果たした。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
「ねぇ……真也さん、あたし……今まで、あなたを満足させてあげられてなかったんじゃないの?」
啼き過ぎて、少し掠れた声になってしまった紗香がぽつりとつぶやいた。
「あたし、あのいかがわしいホテルで抱かれたとき、それに気づいて、哀しくなっちゃったと同時に……すっごく申し訳なくなっちゃったの」
——それで、おれに謝ってたのか。
しかし……っとに、よくもまぁ、くだらねぇことを次から次へと思い浮かべやがるな。
「バカだな。そんなわきゃねえだろうが。おれは紗香に出逢ってからは、おまえにしか勃たねえカラダになっちまったってのにさ」
紗香は一瞬のうちに真っ赤っかになって、黙り込んだ。
これからは、こいつのくだらねぇ戯言は、聞いた時点で「瞬殺」することにした。
「なぁ、紗香。おまえ……やっぱり、女の子がほしいか?」
紗香の顔がギョッとなる。
「む…無理無理無理無理無理……っ!絶対にもう無理っ!産めないからっ!!」
——わかってるよ。まぁ、このタイミングで訊けばそう思うだろうがな。
「おまえ、昔一度だけ朝比奈のパーティで見た、田中の娘を覚えてるか?」
田中とは、名古屋支社長を兼ねた常務のことである。
「あぁ、田中くんの娘さんって……松濤の実家にある市松人形にそっくりだった女の子ね」
短大卒の紗香より四大卒の田中の方が年齢は上だが、入社した年では同期だ。
——あいつは紗香のことが好きだったに違いない。
でも、紗香はおれがかっ攫ったため、田中は紗香が教育係を務めた山村 敦子と結婚したのだが、その「あっちゃん」がなんと紗香によく似ているのだ。実の姉の清香よりも、あっちゃんの方が紗香と姉妹に見えるほどである。
「もし、うちに女の子が生まれていたら、あの子みたいな子だったと思うわ」
紗香が遠い目をして言った。あのパーティで彼女を見たときと同じ言葉だった。
田中の娘は幸いにも、表面上は父親のDNAがカケラも反映されず、ただあっちゃんのDNAだけで形成されていた。つまり、まるで紗香の娘に見えるほど、よく似ていたのである。
「……あの子を、大地の嫁にしないか?」
「ええっ、そんなことができるのっ⁉︎」
紗香の顔がぱーっと晴れやかに輝いた。まるで、大好きなタカラヅカの話を語っているときのようだ。
「あぁ、おまえが望むなら、どんな手を使っても、あの子を必ず、大地の嫁にしてみせる」
おれは自信たっぷりに言い切った。
——一応、あのとき「本人」には、
『そうだ、お嬢ちゃん、うちのガキの嫁さんになってくれよ。そしたら、おじさんもきみの「おとうさん」になれるからさ』
と「申し入れ」したしな。
彼女はまだ、小学生になったばかりの歳だったが……
思えば、おれの趣味はゴルフ、紗香はタカラヅカで、おれたちには「共通の趣味」がない。
とりあえず、このことがお互いに大いに興味を持って語り合える「共通の話題」になることは間違いない。確か田中の娘は現在、高校生くらいになってるはずだ。
——このネタで、紗香と数年は楽しめるな。
そのために、一人息子の人生が多少ひん曲がったとしてもなんだというのだ。おれはそんなことよりも、愛しい「嫁」の喜ぶ顔が見たいのだ。
「……楽しみねっ! わくわくするわっ‼︎」
紗香の瞳が、今日プレゼントしたヴァン◯リのエタニティリングのように、きらきらと煌めいている。
——あぁ、なんてかわいい。
「紗香、愛してるよ」
おれはベッドの隣で横たわる、愛する嫁を引き寄せて、ちゅっ、とキスをした。
「あたしも……真也さんのこと、愛してる」
紗香もおれに、ちゅっ、とキスを返してくれた。
——当然、キスだけでは、終わらないけどな。
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