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Chapter 9
⑧
しおりを挟む「男も女も、相手が変わるとエッチが変わるんですって。……特に『相性』のいい相手に出逢うと、ガラッと変わることがあるんですって」
——あのクソババァ、純情可憐でど天然の紗香に、なんてことを吹き込みやがるっ⁉︎
「凌牙さんが言ったんじゃないわよ」
紗香が、ふふんと生意気に笑った。
「男の人たちの意見だもの……真実でしょ?」
「だ…だれに聞いたんだ?」
できるだけ冷静に訊いたつもりだが、声が裏返りそうだ。
だが、紗香は「反抗期」を思い出したのか、ぷいっ、と横を向いた。
こうなると紗香が手強くなるのは、伊達に二十五年も結婚生活を送ってるわけじゃないから、百も承知の二百も合点だ。
——攻め方を変えよう。
そもそも、おれは『頑固な亭主をどうやって説得できたんだ?』と訊いたはずなのに、なぜか「おれが会社の子と浮気した」って話になったんだったよな?そして、その話は「伊東」から聞いたと言っていた。
「……なぁ、紗香。なんで伊東は、おれが会社の子と浮気してる、なんて言ったのかな?」
気を鎮めて、穏やかに尋ねてみる。
「伊東くんが口を滑らせたの。『オカン、専務と違って、浮気とか不倫とかじゃないからいいじゃないか』って」
「はぁ⁉︎ あいつ、なに言ってやがんだっ⁉︎何の根拠があって、そんなこと言うんだっ⁉︎」
おれは思わず声を荒げた。
「会社の秘書課の女の子たちが『証拠写真』を持ってるそうじゃないの?」
おれの背筋を一気に氷点下四〇度でのバナナみたいにカチカチに凍らせるほどの声で、紗香が告げた。
「伊東くんは、あなたと相手の女子社員が、いかがわしいホテルに入っていくところが、バッチリ写ってる写真を見たって言ってたわよ」
——なんだ、そういうことか。
こんなことになるんだったら、あのときに伊東にも「真相」を話しておくべきだったな。
——一生の不覚だ。
それにしても、スリートップの女子社員への統制力はすさまじいな。鉄のカーテンだ。
さすが、男子社員からゲシュタポだのKGBだの揶揄されてるだけあるな。
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