もう一度、愛してくれないか

Chapter 8

①

　
　仕事から帰ったとき、うちに妻がいて、「おかえりなさい」と出迎えてくれることが……
　できたての、身体に良さそうな料理が食卓に並んでいることが……
　いつでも入れる風呂が用意されていることが……

　——こんなに心安らかになることだなんて、「参勤交代」生活が長すぎて、すっかり忘れていたな。


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　その週ずっと、紗香は大阪にいてくれた。たぶん、今週末までは東京へは帰らないだろう。
　なぜなら、今週の土曜日が……おれたちの結婚記念日だから。しかも、結婚して二年後に生まれた息子の大地が今年二十三歳になるということは……

　——二十五年目の、銀婚式である。

　実は……大きな声では言えないが……ふと「もうすぐ結婚記念日だが、結婚して何年だっけ？」と思って数えてみて、初めて気づいたのである。
　——本当にヤバかった。

　妻はそのために大阪にやってきたに違いなかった。

　あわてて彼女へのプレゼントを探すことになって、会社の顧客でもある華丸百貨店の外商部長に泣きついた。「記念になるものを」ということで、カタログを会社に持ってきてもらって検討の結果、これだ！と思ったものがあったのだが、サイズがなくてそこも泣きついた。

  『上條様のためでしたら』と外商部長は言い、全国の店舗と直営店に問い合わせてもらったら見つかり、なんとか間に合いそうだ。
　——ホッ、と胸を撫でおろす。
『せめて、二週間前におっしゃってくだされば……』と何度も言われたが……
　——その代わり、すっげぇ張り込んだぞ、紗香！

　結婚記念日の当日はホテルでディナーをして、そのあとはそこのスイートで泊まれるよう予約を入れてある。今度は、たとえ「組員」どもにスマホで撮られても恥ずかしくないホテルだ。
   ——っていうか、こちらから撮ってほしいくらいである。

　本当は、二十五年前のその日に結婚式を挙げた、東京のわが国を代表する一流の老舗ホテルにしたかった。だが、大阪にも同じホテルがあるので、そちらの方を予約した。

　それにしても、車で行くから関係ないが、最寄り駅が環状線だと天満より桜ノ宮の方が近いんだよな。
　桜ノ宮は、東京で言うと山手線の鶯谷みたいなところだ。お城のようなメルヘンチックなホテル群とは川を隔てた向こう側に、わが国を代表する一流の老舗ホテルが鎮座しているのだ。

　大阪の方は比較的最近建てられた後発とはいえ、ほかの星付きホテルでは考えられない、なかなか斬新な立地である。確かに駅の名に違わず、両岸に連なる大川の桜は毎年圧巻だが。
　そういえば、東京の実家の近くにも大川（隅田川の下流域）があったな。
　きっと、一流老舗ホテルからのその眺めは「桜の通り抜け」で有名な造幣局の借景も含め、すばらしいに違いない。

　とにかく、この結婚記念日のことは……

　——紗香には、内緒だ。