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Chapter 7
④
しおりを挟む「確か、専務の奥さまって、会長の娘さんでしたよね?」
豊川は、込み上げてくる笑いを堪えながら尋ねてきた。
「……そうだ」
おれは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
会長の猛反対を押し切りまくってやっとの思いで結婚した、そんな立場のおれが妻に隠れて浮気なんかできるわけないだろう。
そんなことがバレでもしたら、即刻離婚させられて、会社もお払い箱だ。
会長は、今でもかわいい娘が孫を連れて出戻ってくるのを、手ぐすね引いて待っているところがある。
表面上は、おれに激似の大地に対する会長の風当たりは強く、一見もう一人の孫の慶人を依怙贔屓しているように見えるが……さにあらず。
朝比奈一族全体の中でも、次代を担うプレッシャーに抗えるタフさを一番持っているのは大地だ、と考えているのが透けて見える。「参勤交代」はそんな会長の「策略」の一つだ。
オンナ受けのよいおれに魔がさすように、との会長の切実なる願いだ。
若かりし頃、追い払っても追い払っても、オンナは向こうから寄って来た。
それに、おれも男だ。どうしても紗香の肌が恋しくなったときがあった。ジムで一心不乱に汗を流してもダメだった。
そんなときは、赴任地から高速をぶっ飛ばして、家に着くなり紗香を抱いて、またすぐにトンボ帰りした。
だから、赴任地には必ず車が置いてあるのだ。(品川ナンバーから変えざるを得なくなったのはここ大阪が初めてだが……)
「……奥さま、会長には似てはりませんねぇ」
豊川がおれのスマホの紗香の笑顔を見て、しみじみ言った。
スリートップは、それぞれの「組員」への「手打ち」のメール送信で忙しそうだ。
「あぁ、ありがたいことに母親似だ」
「ステキなご夫婦ですねぇ……憧れちゃいます」
豊川が羨ましそうに微笑んだ。
——大阪支店勤務の泉州男と、結婚を考えているのか?
「結婚して二十年以上も経つのに、未だにラブラブなんて、すごいですよ!共通の『趣味』とかあるんですか?」
「そんなのないよ」
プロともガチでラウンドするおれと、未経験者の妻が、お互い「楽しく」ゴルフできる確率は果てしなく低い。
コンペなんかで同じ組に夫婦がいた場合、たいてい亭主が女房に「余計なアドバイス」をする。
だが、そんな急にできるものではないから、女房が失敗すると、亭主が「それ見たことか」とか「なんでおれの言うとおりにしないんだ」とか言って女房の地雷を踏む。
すると、風薫る緑豊かなフェアウェイのど真ん中で……
「うるさいわねっ!ほっといてよっ!」
「なんだ、おまえ、せっかく教えてやってんのにその態度はなんだっ⁉︎」
「『教えて』なんて、わたしがいつ言った?だいたい、あなた、わたしに教えられるようなスコアなのっ⁉︎ 調子が悪いとか言って、ほんとは実力ですぐ100叩くじゃないっ!」
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