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Epilogue

⑥ 〈完〉

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   島村室長がハッと我に返ったようだ。すぐさま内ポケットからスマホを取り出した。

「おい、おれだ。………バカかっ、オレオレ詐欺じゃないっ!おまえはおれの声もわからないのかっ⁉︎」

   タメ口も初めてだったが、こんなにぞんざいな口調の島村室長こそ初めて見る。

「うるさいっ、おまえの声は耳につくんだ。いいか、よく聞け。………だから、ギャンギャン騒いでないで、おれの話を聞けって言ってるんだっ!本来ならば恭介に言ってるところを、特別におまえに教えてやってるんだ!」

   ものすごいケンカ腰で、しかもかなりの「俺様」っぷりなんだけど、相手はだれだろう?

「きっと、光彩ありささん——進藤 光彩弁護士ですよ」
   翔くんがそっと教えてくれた。

——あっ、友佳ともちんが言ってた、法務部が季節外れのブリザードになってるという、あの女弁護士さんね⁉︎ しかも、学生時代の元カノっ!

「翔、おれのななみんに気安く話しかけるな」

   諒くんがあたしを引き寄せながら、めんどくさいことを言い出す。


「だから、杉山さんのバーにすぐに来いって!……今、諒志のおもしろいもんが見られるぞ」

   島村室長の興奮した声なんて、激レアなのに。誓子さんだったら、速攻で飛びつくだろうに。

   なのに、自分が関わることだとちっともうれしくない……

   諒くんのシトラスの匂いのする腕の中で、ちゅっ、ちゅっ、と啄むように額や頬に、そして、くちびるにキスされて——最っ高にしあわせの気分なんだけど……

   島村室長のこの様子だと「他言無用でお願いしますよ」なーんて言いながら、きっと、彩乃さんにも誓子さんにもチクるんだろうなぁ。

——週明けの会社には、恥ずかしすぎて……行きたくないなぁ。


   そのとき、カウンターの上に置いてあった諒くんのスマホがヴヴッと鳴った。諒くんが黒い手帳型のケースを開く。

——あっ、あたしがバレンタインでプレゼントしたP◯RTERのスマホケース、使ってくれてる。

   あたしのアメシストのネックレスと同じように、逢えない間はきっと、諒くんの傍にずっといてくれたに違いない。

   ディスプレイにはポップアップが浮き出ていたが、ただのネットニュースだった。

   諒くんが何気なくタップした。

   すると——信じられないものに変わった。

「……ちょっと、諒くん……いったい、なに、それ……?」

   諒くんのスマホのディスプレイの中では、海辺で潮風に吹かれて髪の毛をばっさばさにしたあたしが、そんなことになってるなんてまったく気づかずにバカみたいに笑っていた。

「あ……これ?」
   諒くんはうれしそうに笑って、
「水野局長に頼んで、ななみんの見合い写真をUSBメモリに落としてもらったから、ロック画面にした」
   あたしをより一層、ぎゅーっと強く抱きしめた。

「ななみんと逢えなかった期間は、このロック画面のななみんの笑顔を見て、あの過労死寸前の激務に耐えてたんだ」

——お、お、おとうさんーーっ!

   なんで勝手に、しかもよりによって、この写真をUSBメモリに落とすのよっ⁉︎

   もおぉーーっ!信じられないっ‼︎










「お見合いだけど、恋することからはじめよう」〈 完 〉
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