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Epilogue
⑤
しおりを挟む諒くんの隣に腰かけた島村室長が「とりあえずビール」とオーダーしたあと、
「おい、翔……こいつら、まさか、ずっとこの調子か?」
と尋ねると、翔くんがははは…と虚ろに笑った。
すると、カウンターに肘をついた島村室長は、はぁ……っと深いため息を吐いて、
「……失恋したての身にはつらいな」
ぼそり、とつぶやいた。
——えっ、島村室長が失恋っ?だれにっ⁉︎
思わず身を乗り出しかけたあたしに、諒くんの腕が伸びてきて、抱きしめられるような形で制される。
諒くんからふわりとシトラス系の香りが来た。イギリスのブランド、フ◯ーリスのセフィーロという香水だそうで、もう一人の「遊ぶ相手」である松波さんから勧められたものらしい。
「もうほかの男を見るんじゃない。死ぬまで、おれだけを見ろ。 おれだって、もう……死ぬまで、七海以外の女を見る気はない」
——諒くんって、クールそうに見えるのに、恥ずかしげもなく、すっごく情熱的なことを言ってくれるんだよなぁ。
「大丈夫……もう諒くん以外は見ないもん」
あたしは、ふふっ、と微笑んだ。
——それにしても、島村室長、よりによって……
お仕えしている副社長と彩乃さんは予定どおり四月末に挙式するし、「遊ぶ相手」の諒くんはあたしと婚約するし、おまけに誓子さんだって、ステーショナリーネットの葛城社長と順調そのものだし。
——失恋したてで、こんなにしあわせオーラに囲まれちゃ、気の毒だわ。
ぼんやりとそんなことを考えていたら、いきなり諒くんから、ちゅっ、とキスされた。
「おれのこと見てないからお仕置きだ」
——ちょ、ちょっとっ!会社の「上司」の前なんですけれどもっ⁉︎ しかも、くちびるなんですけれどもっ⁉︎
案の定、カウンターから顔を上げた島村室長の、あのいつも沈着冷静で、いかなるときにも表情を見せない彼の目が……みるみるうちに見開いていった。
「……向こうから寄ってくる女は、みんな女優やモデル並みの女ばかりで、メール一つしない放置プレイがデフォのくせに、向こうが不満を言い出したら速攻で別れ話をし、どんなに泣き叫ばれようが縋りつかれようが、顔色一つ変えずにバッサリ切って捨てていた、あのおまえがな……」
——えっ、なになに?
すると、諒くんの大きな手のひらで、両耳をすっぽりと塞がれた。
「茂樹の戯言なんて、聞かなくていいからね」
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