お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

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Epilogue

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「そうだなぁ……なににしようかな?」
   ここは、ビール一つとっても種類が半端なく多いみたいだ。

   ところで、あたしが「お酒が呑める」ということは——あたしは妊娠していない、ということである。

   あの夜、あたしたちは夜が明けるまで、何度となく「ナマ」でヤッてしまったのだが。
   にもかかわらず、来るべき日にちゃんと月経はやってきた。

   その日のうちにしっかり着床させた目黒先輩って、ある意味「テクニシャン」じゃん。あたしは妙なところで感心させられた。

——果たして、一回だったかどうかは知らないけれど。

   無事、月経が訪れたことを諒くんに告げると、ホッとしながらも、でもちょっと口惜しそうな、なんとも言えない顔になった。

『水野局長に顔向けできないことはしたくない、って気持ちと、ななみんとの子どもがほしかった、って気持ちとがせめぎ合ってる』

   あぁ、この人は、あたしと本気で家庭をつくろうとしてくれてるんだ、としみじみ感じた。

『でも、結婚するって言っても、諒くんとはつき合ったばっかだからさ。やっぱり……ちゃんと「段階」を踏もうよ?』

   あたしがにっこり笑いながらそう言うと、諒くんは『それもそうだな』と頭をぽんぽんしてくれた。

『おれも……七海をもっと愉しみたいしな』

   今晩、また眠れなくなるかもしれないな、という妖しい笑顔を浮かべながら……

   そして、それからはちゃんとゴムを着けてセックスするようになった。

   ちなみに、もう逢えないでいるのは絶っ対にイヤなので、あたしが諒くんのワンルームにすっかり入り浸りの状態だ。
   だから、最近のおとうさんの機嫌がすこぶる悪い。

——まぁ、無視してるけど。ふふっ。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


  あたしは赤っぽいバ◯ペールエールをごくり、と呑んだ。

   常温でも呑めるイギリス王室御用達のエールビールだ。フルーティーで濃厚な味わいが口の中に広がる。
   下面発酵ラガーが主流の日本では、上面発酵のエールビールはめずらしく、大手メーカーではサ◯トリーのプレミアムモ◯ト・香るエールくらいかも。

「ななみんさん」 

   翔くんがいたずらっ子の顔で訊く。

「ビールをお呑みになったら、バ◯ーネ・リカーゾリも、ロングアイランド・アイスティもありますよ?」

   あたしは彼を、ぎろり、と睨んだ。

——やっぱり、覚えてやがったな。

   ということは——目黒先輩との話も、赤木さんとの話も、覚えてるってことだな。


   つい先刻さっき、諒くんのスマホに通話があって、バーの外に出て行った。
   もしかしたら、今夜これから会うことになっている、諒くんの「遊ぶ相手」の一人からかもしれない。

「そんな怖い顔しなくても、大丈夫っすよ。諒志さんには、なにも言いませんから」

——やっぱり、覚えてやがるっ!

   あたしはますます翔くんを睨んだ。

「その代わり……」

   翔くんは不敵にニヤッと笑った。

「ななみんさんから、どんなに頼まれようとも『諒志さんのこと』だって、絶対にしゃべりませんからね」

「……へっ?」
   あたしは間の抜けた顔になった。


   するとそのとき、足早に諒くんが戻ってきた。

「……翔、ななみんに、余計なこと言ってないだろうな?」

   血も凍りそうな氷点下の声だった。しかも、いきなり視線だけで人の息の根を止めるかのような凄まじさだ。

「なにも言ってませんよー」

   翔くんは両手を挙げて、ホールドアップの形をとる。そして、諒くんの背後から店に入ってきた人へ、これ幸いと「いらっしゃいませ」と声をかける。

「あ、外で仕事のことで通話してたら、ちょうど来たんだ」
   諒くんがその人の方へ振り返る。

……「遊ぶ相手」が、ついに現れたのだ。

   だが、しかし——

「えっ……うそっ……」

   あたしは、この人を知っている。

   そして——その人も、あたしのことを知っていた。

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