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Last chap. あたしの愛しい人
④
しおりを挟む「……ななみん」
諒くんは顔を顰めて、はぁーっと深いため息を吐いた。
——あぁ、またやらかしてしまった。
諒くんがあたしのことをどう思ってるのかなんてお構いなしに、自分一人で突っ走ってしまった。
「ご、ごめんなさい……やっぱり帰ります」
あたしは俯いて、悄気た声でつぶやいた。
すると、いきなり、ブリーフケースを持っていない方の手で、肩をぐっと引き寄せられた。
「今さら帰りたいなんて言っても、今夜はもう……おれの方が帰さないよ」
——ええっ?う、うそ……ほんとに?
「……まさか、こんな場所で、一世一代のセリフを吐くことになるとはな」
諒くんはイラついた声でぼそりと言った。
しかし、気を取り直したかのように、
「ななみん、顔を上げてくれ」
と言って、提げていたブリーフケースを地面に下ろし、両手であたしの両肩をぐっとつかんだ。
「こんなことをコンビニの前なんかで言うのは、不本意の極みなんだが……」
あたしは背の高い諒くんを見上げた。諒くんは射抜くような強い目で、あたしを見つめていた。
「きみは、きちんとした見合いで知り合った上司のお嬢さんだ。今まで適当にやってきた『遊ぶ相手』とはワケが違う」
——えっと、ちょっと、なんか、突っ込んでじっくりと訊きたいことを、さらっとおっしゃってる気がするんですけれども……
にもかかわらず、あまりにも諒くんの目力がすごくて——なにも訊けない。
「初めて逢った見合いのときに、きみは確か『たとえお見合いであっても、やっぱり好きになった人と結婚したい』『そして、結婚したからには、あたし一人を愛してもらって幸せになりたい』と言ったよね?」
あたしは大きく肯いた。
「だから、おれはきみに『どこの世界に妻に愛されたくない男がいる?』『もちろん、おれだって結婚したからには、きみのお父さんみたいに妻一人を愛して、幸せにするつもりだ』と言った」
諒くんとは初めて逢ったというのに、しかも「お見合い」だったというのに「やらかしてしまった」あのときのことが、なぜか、なつかしい思いで甦ってきた。
諒くんが肩を震わせて大爆笑していたあの声も……
「そしておれは、ななみんに『まず、ちゃんと恋をするところからはじめよう』と提案した」
そこで、諒くんはくしゃっと顔を歪めた。
「それなのに、おれは仕事が忙しくて、なかなか逢うこともできず……まぁ、そういうのが理由で、今までつき合ったヤツともうまくいかなかったんだが。だから、きみと逢うのは今日でまだたったの三度目だ」
そして、諒くんの怖いくらいの目力がふっ、と緩んだ。
「なのに、おれはもう、きみに恋している。……きみもそうだ、と思っていいか?」
——そんなの、思っていいに決まってる。
「あたしも、まだ逢って三度めだけど……諒くんに……恋してます」
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