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Last chap. あたしの愛しい人

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『ななみん、声を聞かせてくれよ?……それに、せっかくのビデオ通話なんだからさ。顔もちゃんと見たいんだけど』

——ビデオ通話?

   あたしはスマホのディスプレイを見た。すると、そこには諒くんの顔が映っているではないか。

   あたしの顔を確認した諒くんが、
『……やっと、ななみんの顔が見られたな』
   そう言ってにやっと笑いながら、軽く手を振っている。

——ぎえええええぇーーーっ!

   あたしの指は【ビデオ通話】までもタップしていたのだ。

「ぎゃああああぁーーーっ!」

   あたしは声を限りに叫んだ。

「みっ、見ないでっ!諒くん、お願いっ!見ないでよっ!!」

   うわーっ、もう最悪だ。こんな夜中に諒くんにL◯NE通話するだけじゃなく、よりによってビデオ通話しちゃうなんてっ!

『……なんだよ?せっかく、ななみんから通話してきたのに……』

   突然、諒くんの声がくぐもった。

——えっ、うそっ!もしかして……怒らせちゃった⁉︎


   あたしはあわてて、知らず識らず逸らしていた目を、恐る恐るスマホのディスプレイに戻す。

   すると、中では諒くんが目を細めて微笑んでいた。

   そして、その微笑みはどんどん大きくなり、やがて、くくくっ…と、肩を揺らして笑い始めた。

『……こんな……夜中に……突然、通話……してきたから……ななみんに……とんでもない……ことが……起きたんじゃないかって………なのに……』

   今や、息も絶え絶えになって、ヒィヒィ笑っている。

『通話してきておいて……しかも、ビデオ通話で……なのに、いきなり……『見ないで』って……そんなの……ありえなくないか……?』

——あぁ、これが「諒くん」だ。

   あたしがどんなおバカなことをやらかしても……こともなげに受け容れてくれるどころか……

   肩を震わすほど爆笑しながら、あたしをすっぽりと包み込んでくれる。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   ひとしきり笑ったあと、息を整えながら諒くんが尋ねる。

『ななみん……もしかして、外?』

——うっ、あたしの背景には漆黒の闇が映っているはずだ。

『……だれかと一緒?』

——あっ、そういえば、『なるべく、男がいる呑み会には行かないでほしいんだ』って言われていたんだった!

「う、ううん。一人っ!今、ちゃんと一人でいるからっ!!」

   あたしは首を左右に思いっきり振って、スマホの中の諒くんに向かって必死で言った。

『……一人?』

——あれ?なんだか、諒くんのトーンが急に落ちたぞ。

   心なしかその表情も、打って変わって険しくなっていくような……


『ななみん、今どこ?』

   諒くんは単刀直入に訊いてきた。

「え、えーっと……」

   円山町の近く、とは口から裂けても言えない。

「どっ……道玄坂」

なんとか搾り出したものの——

『道玄坂のどこ?』
   間髪入れず返ってきた。

   あたしは目の前の交差点の、信号機の傍にある「道玄坂上」を見た。

——うーん……バレちゃうよね?

『とにかく、どこでもいいから、速攻で近くのコンビニに入ってくれ』

——はい?

『今から、迎えに行くから』

——どええええええぇーーーっ!?

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