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Last chap. あたしの愛しい人
①
しおりを挟むあのあとフロントに電話してドアを開錠してもらい(ああいうところのドアは精算を済ませないと内側からは開かないようになってるからね)、赤木さんをひとり部屋に残したまま(この時間ならどうせ宿泊料金だろうから朝までいるのかも)、意気揚々とラブホを出てきたのはいいのだが……
時刻はすでに夜中で、とうに終電は過ぎている。
足早に南下して、すぐさま円山町を「脱出」したのはいいけれども、今からタクシーで赤坂見附の家に帰れば「こんな時間まで、どこでなにしてたっ⁉︎」と親に叱られるのは必至である。
それならいっそのこと(タクシー代は倍以上かかってしまうが)友佳のアパートに泊めてもらって、明日親のいない時間帯を見計らって、こっそり帰宅する方が得策だ。(まぁ、いつも呑み会のあとでやってる「作戦」だけど……)
あたしは歩きながら、フ◯ラのパイパーからスマホを取り出した。LINEのアイコンをタップして、トークを開く。
すると、【白石 友佳】よりも先に【田中 諒志】という名前の方が目に飛び込んできた。
「……諒くん、今頃、なにしてるんだろ?」
同じ職場で働く父や姉を見ているから、仕事が激務なのは先刻承知だけれども……たった二回だけ逢ったきり、かれこれ一ヶ月近く逢えていないのだ。
——だけど、こんなに逢えないほど、忙しいものなのかなぁ?
——まさか、この前の初デートで、さんざんやらかしてしまったあたしに幻滅したとか?
——もしかして、あたしよりも「遊ぶ相手」の方を優先しているってこと、ないよね?
なんだか……どんどん悪いことばかりが浮かんでくる。
先刻までの高揚感は、こっぱみじんこに砕けていた。そもそも、なーんの裏付けもなく、たった一人で盛り上がっていただけだったけど……
赤木さんに向かって放った『あたし……お見合い相手の人と結婚します』という宣言も……
『いざとなったら……あたしから逆プロポーズしてやるわ!』という決意も……
『これからのあたしの人生を、共に歩きたいと思えるのは……諒くんしか、いないんだもん』という想いも……
今ではこの真っ暗闇の夜空の彼方に吸い込まれて、跡形もなく消えていってしまいそうだった。
すると、そのとき——
『……ななみん?どうした、こんな時間に?まさか、なにか……あったのか?』
聞こえてきたのは……諒くんの声だった。
『ななみん……?』
——ぎえええぇっ!
どうやらスマホを握り締めた指が、知らぬ間に【無料通話】をタップしていたらしい。
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