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Chap.6 元カレの赤木さん 2
⑳
しおりを挟む「りょ…『諒くん』って……」
赤木さんが大きな目をこれでもか、ってくらい見開いている。
「七海……見合い相手は同い年か?」
そういえば、赤木さんさんとはどんなに「深い仲」になろうとも、いつまでも「赤木さん」だったな。
呼び捨てにすることはおろか「隼人さん」とさえ、呼んだことはなかった。
それは、目黒先輩も同じだった。赤木さんよりももっと長い期間「深い仲」だったにもかかわらず、いつまで経っても「先輩」のままだった。
——あれ? 先輩の下の名前ってなんだっけ?
……ま、それは冗談だけれども。ふふっ。
「まさか……おまえよりも歳下かっ?……ちかっぱムカつく」
なんだか楽しげに笑うわたしを見て、赤木さんが不機嫌そうに顔をしかめる。
「歳下やなかとよ」
あたしは首を振って否定した。
「諒くんは、赤木さんの一つ上っちゃ」
すると、赤木さんはムンクの顔になって叫んだ。
「なんや、おまえっ!おれより歳上の男をそがん呼んどうとかっ⁉︎ そいつも三〇過ぎとうとやろうがっ!!」
こんなイケメンのムンク顔を拝めるのは貴重な体験かもしれない。
「そぎゃんびっくりすることやなかろうも?」
あたしは鼻で、ふふんと嗤った。
「諒くんから『だれにも呼ばれたことない呼び名だから新鮮だ。これからは、おれのことをそう呼んでくれ』っち言われたけん、そう呼んどぅとぉ♡」
わざと「かわいか博多弁」を遣ってやり、そしてトドメに「あたし史上最高の笑顔」を振りまいて言い放ってやった。
「ばってん、あたしが『諒くーん』っち呼んだときん、諒くんのはにかんだ笑顔の、ばりかわいかっちゃことっ♡」
赤木さんは返す言葉もなく、すっかり脱力していた。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
乱れた身なりをすっかり整えたあと、カウチソファの端に置いていたスプリングコートとフ◯ラのパイパーを手にして立ち上がる。
「……赤木さん」
あたしは改まって彼の名を呼んだ。
「あたしたちは、やっぱり……三年前に終わっているんです」
赤木さんがあたしを見る。生気も覇気もない虚ろな目だった。
「あたし……お見合い相手の人と結婚します」
——まぁ……肝心の諒くんからは、まだなにも言われてないけれど、いざとなったら……あたしから逆プロポーズしてやるわ!
だって、あたしには諒くんしかいないもん。
これからのあたしの人生を、共に歩きたいと思えるのは……諒くんしか、いないんだもん。
「あたし、彼と一緒に、絶対に……しあわせになりますから!」
あたしは最後に、彼に向けてにっこり微笑んだ。
「さよなら……赤木さん」
またその目に、生気も、覇気も、甦らせる女性が現れることを願って——
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