お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
86 / 102
Chap.6 元カレの赤木さん 2

しおりを挟む

「りょ…『諒くん』って……」

   赤木さんが大きな目をこれでもか、ってくらい見開いている。

「七海……見合い相手は同い年か?」

   そういえば、赤木さんさんとはどんなに「深い仲」になろうとも、いつまでも「赤木さん」だったな。
   呼び捨てにすることはおろか「隼人さん」とさえ、呼んだことはなかった。

   それは、目黒先輩も同じだった。赤木さんよりももっと長い期間「深い仲」だったにもかかわらず、いつまで経っても「先輩」のままだった。

——あれ? 先輩の下の名前ってなんだっけ?

……ま、それは冗談だけれども。ふふっ。

「まさか……おまえよりも歳下かっ?……ちかっぱムカつく」

   なんだか楽しげに笑うわたしを見て、赤木さんが不機嫌そうに顔をしかめる。

「歳下やなかとよ」

   あたしは首を振って否定した。

「諒くんは、赤木さんの一つ上っちゃ」

   すると、赤木さんはムンクの顔になって叫んだ。

「なんや、おまえっ!おれより歳上の男をそがん呼んどうとかっ⁉︎ そいつも三〇過ぎとうとやろうがっ!!」

   こんなイケメンのムンク顔を拝めるのは貴重な体験かもしれない。

「そぎゃんびっくりすることやなかろうも?」
   あたしは鼻で、ふふんとわらった。

「諒くんから『だれにも呼ばれたことない呼び名だから新鮮だ。これからは、おれのことをそう呼んでくれ』っち言われたけん、そう呼んどぅとぉ♡」

   わざと「かわいか博多弁」を遣ってやり、そしてトドメに「あたし史上最高の笑顔」を振りまいて言い放ってやった。

「ばってん、あたしが『諒くーん』っち呼んだときん、諒くんのはにかんだ笑顔の、ばりかわいかっちゃことっ♡」

   赤木さんは返す言葉もなく、すっかり脱力していた。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   乱れた身なりをすっかり整えたあと、カウチソファの端に置いていたスプリングコートとフ◯ラのパイパーを手にして立ち上がる。

「……赤木さん」

   あたしは改まって彼の名を呼んだ。

「あたしたちは、やっぱり……三年前に終わっているんです」

   赤木さんがあたしを見る。生気も覇気もない虚ろな目だった。

「あたし……お見合い相手の人と結婚します」

——まぁ……肝心の諒くんからは、まだなにも言われてないけれど、いざとなったら……あたしから逆プロポーズしてやるわ!

   だって、あたしには諒くんしかいないもん。
   これからのあたしの人生を、共に歩きたいと思えるのは……諒くんしか、いないんだもん。

「あたし、彼と一緒に、絶対に……しあわせになりますから!」

   あたしは最後に、彼に向けてにっこり微笑んだ。

「さよなら……赤木さん」

   またその目に、生気も、覇気も、甦らせる女性ひとが現れることを願って——

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

カラダから、はじまる。

佐倉 蘭
現代文学
世の中には、どんなに願っても、どんなに努力しても、絶対に実らない恋がある…… そんなこと、能天気にしあわせに浸っている、あの二人には、一生、わからないだろう…… わたしがこの世で唯一愛した男は——妹の夫になる。 ※「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「常務の愛娘の『田中さん』を探せ!」「もう一度、愛してくれないか」「政略結婚はせつない恋の予感⁉︎」「お見合いだけど、恋することからはじめよう」のネタバレを含みます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...