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Chap.6 元カレの赤木さん 2

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   地の底から湧き上がってきたような、あたしの低ーい声に……

「な、七海……?」

   赤木さんは虚を衝かれて、呆然とした顔になった。

——そうだろうよ。

   あたしは彼とつき合っていた頃、がんばって「かわいか博多弁」を遣っていたけれど……こんなドスの効いた言葉遣いは、したことがなかったからだ。

「しかも、あんた……諒くんがどげな人間か、なぁーんも知らんとやろが⁉︎」


   実は、そもそもあたしの博多弁は今の若い人が遣う言葉とは異なる。

   小学生のとき、父の転勤で東京から福岡に移った際、言葉の違いでいじめられはしなかったものの、それでも級友たちとはなんだか「壁」があるような気がした。

   だから、なかなか打ち解けることができず、学校にいる間は話すけれども、休日まで一緒に過ごすような友達はいなかった。

   だけど、それではやっぱり寂しいので、なんとか言葉をマスターしたいと思った。

   だが、ネイティブの父は毎晩日付の変わる頃に帰り休日もなく働いていたため、顔を見る機会すらほとんどなかった。(それに、長浜の屋台のラーメン屋の店主以外とは筑後弁をしゃべらなかったし。)
   母に至っては、生粋の東京生まれの東京育ちである。

   そこで、あたしは休みになると一人西鉄に乗って、柳川に住む祖父母のところへ出かけ、彼らと話すことでこの地の言葉を身につけていったのだ。
   なので、博多弁というよりも筑後弁っぽいし、より多く会話していた祖母の言葉遣いの影響が大きい。

   男ばかりの三兄弟のうちの長男であるあたしの父は、幼い頃「母親に叱られる声」が世界で一番恐ろしかったそうだ。そして、どうやらあたしの声は祖母譲りらしい。

   職場では(たぶん)鬼のように厳しくて恐れられているであろう父が、あたしの機嫌を損ねた声を聞くと、ビクッとしてすぐなだめにかかるのは、そのためだと思う。


「……諒くんとのお見合い初日に、『あたしとお見合いするのは、出世のためですか?もし、そうなら、あたしなんかより、同じ官僚の姉の方がいいですよ?』っち訊いたとや」

   すると、赤木さんの顔が「おまえ、見合い初日に相手にそがんこつ訊いたんか?」というふうにギョッとなった。

「ばってん諒くんは、『別にきみのお父さんに頼らなくてもさ。それこそ、おれなら、「自力」で出世できるからね。だから、きみは、そんな余計な心配はしなくていいよ』っち、答えてくれたけん……」

   初めて諒くんと会った、あのお見合いの席でのことが、ありありと甦ってきた。

「やけん、あたしが諒くんに『たとえお見合いであっても、やっぱり好きになった人と結婚したいんですっ!そして、結婚したからには、あたし一人を愛してもらって幸せになりたいんですっ!!』っち言うたら……」

   あたしの顔に、ふっくらとした穏やかな笑みが広がっていく。

「『どこの世界に妻に愛されたくない男がいるっていうのさ?もちろん、おれだって結婚したからには、きみのお父さんみたいに妻一人を愛して、幸せにするつもりだぜ』っち、諒くんば言うて……」

  そして、満開の笑顔の花が咲く。


「『……じゃあ、まず、ちゃんと恋をするところからはじめよう』っち、あたしに言うてくれたっちゃ」

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