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Chap.6 元カレの赤木さん 2

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   その直後、赤木さんの身にビリッ、と電流が走った。

——七海、おまえはエスパーか⁉︎

という驚愕の顔をしている。


   あぁ、やっぱり、そうだったか……

   はかない望みはバッサリと一太刀ひとたちに叩きられた。

   あたしは、あまりの自分の「見る目のなさ」にがっくりと項垂うなだれた。地に堕ちた自尊心は地球の裏側までめり込んで行き、戻ってくることは当分ないだろう……

なり振り構わず手段選ばずで、すっぽん並みの執着心の桃子さんですよ?赤木さんが東京に転勤になったからって『はい、そうですか』って言って、あっさりと諦めるとでも?今頃、またお父さんの専務に相談して、自分も東京に戻る算段をしてるかもよ?」

   あたしが呆れ果てた口調で言うと、
「……やっぱ……そうだよなぁ……」
   赤木さんは、あのふてぶてしいまでに強気だったのはだれ?っていうくらい、情けない顔でうめいた。
   しかも、無駄にイケメンな分、残念さが半端なく増量されていく。

「もし、赤木さんが桃子さんときっぱり離れたければ、意を決してしっかりと言わないと。それでなくても、彼女は今年三〇歳の『大台』なんです。このままズルズル行ったら、あとがないと思って、ますます赤木さんに執着しますよ?」

   彼女が今のあたしと同じ歳だったあの頃ですら、
『もう二十七歳だしね。……「政略結婚」の「駒」としては、結構リミットなのよ』
って言ってたくらいなんだから。

——実は「政略結婚」でもなんでもなく、彼女の赤木さんを望む気持ちは、まさしく「恋愛結婚」だったみたいだけど。

「……なぁ、七海、あの頃はまだおまえとは半年ほどのつき合いだったし、おれも二〇代で、結婚なんてまだまだ考えられなかったけどさ」

——それは、あたしもそうだったけれども。

「おれも三〇歳になったことだし、仕事では東京に戻れて、社内でも精鋭が集まるプロジェクトのメンバーにも選ばれた。この機会にプライベートも落ち着きたいんだ。……だから、今度はちゃんと結婚を前提にして、おまえとつき合いたい」

——はい?

「おれが一生を共に過ごしたいと思える女は、やっばり、七海……おまえしかいないんだ。七海を忘れられなくて結婚することになった、って言えば、さすがの桃子も諦めるんじゃないか?」

——はぁ⁉︎

「なんなら、すぐにでも婚姻届出すか?」


「あたし……お見合いしたって何度も言ってるよね?」

   悪いけど、あたしの方は「一生を共にしたいと思える男」は赤木さんではないのだ。

「わかってるさ。だけど、おまえだって、こんなにおれに『素』を見せられるようになったんだ。知り合ったばかりの親父さんの部下で頭でっかちなエリート官僚なんかより、絶対おれとの方が幸せになれるって思わないか?それに、そいつ……おまえと結婚することで、自分の上司であるおまえの親父に取り入って、出世の足がかりにしようとしてんじゃねえか?」

   赤木さんの頬が込み上げてくる怒りのためか、ぴくっと引き攣った。

「そんなヤツに……七海は渡せない」


——えっ? 

   自分だって『正直、武田専務から、見合いの話があったときは……揺れた』って言ってたじゃん。

   なのに、あたしのお見合い相手があたしと結婚することで、自分の上司であるあたしの父親に取り入って、出世の足がかりにしようとしてるんじゃないかって思ったら……

『そんなヤツに……七海は渡せない』ってエラそうなことを言うわけ?

   あたしの心の中で——ぷちっ、と乾いた音がするのが聞こえた。


「はぁ?……あんた、こぉかりしくさって、なぁん勝手なこつ、言うとっとや?」

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