お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

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Chap.6 元カレの赤木さん 2

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   あたしは赤木さんを正面から見据えた。

「なんだかんだ言っても『桃子』って呼び捨てにしてるくらいだし、先日、桃子さんからかかってきた通話での赤木さんの様子から予想すると……」

   そして、そのものズバリ、訊いてやった。

「……赤木さん、桃子さんとセックスしてますよね?」


「——お、お、おまえ……っ⁉︎」

   赤木さんの頬が、まるで乙女のように真っ赤に染まった。

「そんな『夢見る夢子』な顔のくせして……なっ、なんてこと訊いてんだよっ⁉︎ こんなとこでっ!」

——こういうことを訊くのに『夢見る夢子な顔』なんて、関係ないんだよっ!

   それに……こんなとこって、ここはラブホでしょうがっ。しかも、イヤがるあたしを無理矢理連れ込んだのは、あんたじゃんよっ!

   今さら、なに抜かしてやがんのさっ!(いや、別に「そういう意味」じゃないからね。)

「確かに、桃子とは……名古屋に行ってから……そういうふうになってしまったけどな……」

——ほーら、やっぱり。

「名古屋に行ってからも『四面楚歌』なのは相変わらずだった。『自動車』のヤツらからすれば、現場を知らない『ホールディングス』がいきなり東京からやってきて、しかも専務のお気に入りときてるんだ。……喜んで受け入れられるわけ、ないだろ?」

   赤木さんは大きな手のひらで、前髪をぐしゃっ、とつかんで掻き上げた。

「桃子もやっぱり、周りから浮いて孤立していたな。親父が傍らにいるから、東京にいたときより、表立って我を通すようになったしな」

——あたしはなぜ、あんな人を「会社での姉」とばかりに慕っていたのだろう?

   つくづく、自分の見る目のなさが思い知らされる。

「七海からは別れを告げられていたし……桃子からは完全に外堀を埋められたような気がして、もう、このまま、たとえ流されていたとしても『楽』になりたいと思った。専務にくっついていれば、会社での出世は保証されてるんだから、って自分に言い聞かせて、毎日浴びるくらいに酒を呑んでた。でも、全然酔えなくてさ。……このときばかりは、酒の強い自分を恨んだよ。あの頃は、かなり荒んで、自暴自棄になってたな」


「それで……桃子さんとは結婚したの?」

   すると、赤木さんはムッとした顔になり、
「するわけねえだろっ!」
   即座に返ってきた。

「あいつと結婚なんかしていたら、七海に『真っさらな気持ちで、はじめてみないか』なんて言えるわけねえだろっ」

——いやいやいや、こっちはつい最近「目黒先輩」という「前例」があったので。

   それに、『もう、このまま、たとえ流されていたとしても「楽」になりたいと思った』んじゃなかったの?

「じゃあ……婚約は?」

「おれは婚約もしてるつもりはない。第一、桃子にはプロポーズどころか、『好きだ』とも『つき合ってほしい』とも、なにも言ったことがないんだぜ?」

——どれだけの頻度でヤッてるのかは知らないけど。それじゃ桃子さん「セフレ」じゃん。

「あれから三年も経つのに?なのに、まだそんな宙ぶらりんな状態ってこと?」

   あたしの驚きに、赤木さんが顔をしかめる。

「だから、専務からは『もうそろそろ、はっきりしてほしい』って、『自動車』への転属の件も含めて言われていたんだ」

   桃子さんからの「突き上げ」もあるだろうけれど、「男親」としても心配だったんだろうな……

「そんなときに、副社長が『蜘蛛の糸』を垂らして、東京に呼び戻してくれたんだ」

   副社長は、赤木さんにとっては「お釈迦様」というわけか。


「赤木さん、まさか……」

   あたしはイヤな予感が外れることを、心の中で祈った。

——だって、こんな人でも……

「東京の『ホールディングス』に復帰したら、副社長という『後ろ盾』ができて……」

   かつて身も心もひれ伏すほどに……

「武田専務に対しても遠慮せずに、桃子さんとのことを自然消滅フェイドアウトできるって……」

   ただひたすら愛した……

「……思ってなんかいませんよね?」

——たった一人のひとだったんだもん。

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