76 / 102
Chap.6 元カレの赤木さん 2
⑩
しおりを挟む「……先にシャワー浴びるか?」
スーツの上着を脱いだ赤木さんが、ネクタイをキュキュッと緩めながら、あたしに訊く。
——はぁ? なに言ってんの?
巨大なベッドの脇のカウチソファに座ったあたしは、軽蔑しきった顔で赤木さんを見上げた。
「冗談だ。そんな怖い顔するなって。『話ををするだけ』って約束は守るよ」
苦笑した赤木さんは、あたしの対面の一人掛けのソファに腰を下ろした。
入ったラブホの部屋は、あのときの「白雪姫」のようなメルヘンチックなタイプではなく、ブルーライトに照らされたスタイリッシュなタイプだった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「……武田専務から、『とりあえず、堅苦しく考えず、娘と一度ちゃんと会ってくれ。それで駄目だったら、あいつは諦めるだろうから』と言われて、断りきれずに桃子と『見合い』したのが……いや、そのときは見合いとは言われてなかったし、下手におまえに言って怒らせるのはイヤだったし……とにかく、それがすべての間違いだった」
赤木さんはふーっと重い息を吐いた。
「その席で桃子から、入社した頃からおれのことが好きで、七海とつき合っているのは知ってるが、会社で出世するには自分を選んだ方が得策だ、みたいなことを言われた」
——桃子さんが言ってたことと、まったく違うじゃん。
「桃子さんから、お見合いは『「形式的」なもので、わたしたちの結婚はもう決まっている』と聞いたよ。それに、赤木さんが『きみと違って、七海と結婚しても、上にはのぼって行けない』って言ったって……」
そのときに味わった思いが、じわじわと甦ってきた。
「はぁあ?……あいつ……なん言うとうとや……」
赤木さんは苦虫を潰したような顔になった。
「まぁ、おれに出世欲がないと言えばウソになるからな。だから、揺れたことは否定しない。実際、一ヶ月近くおまえを避けてたしな。……でも、桃子は『ないな』と思った。ああいう手段を選ばず人を操ろうとするような女なんかと結婚したら、おれみたいなのはいつか必ずなにもかも捨てて、逃げ出したくなるだろうからな」
九州人の男ってのは時代が変わってもやはり、女には「主導権」を握られたくないのかな?
——うちのおかあさんも、その辺の「加減」には気をつけて、めんどくさくなるのを避けてるみたいだしね。
そして、赤木さんはあたしをまっすぐ見据えた。
「だから、彼女にはきっぱりと言ったんだ。親の威光を借りてなんでも自分の思いどおりにできると思ったら、大間違いだ。そんな女に、おれは興味はない、って……」
そうだ——
「それに、『君と違って、七海と結婚しても、上にはのぼって行けない』だろうが……」
あたしが心底惚れた赤木さんは——
「それでも七海とは別れる気はない、ってな」
——そういう人だった。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
カラダから、はじまる。
佐倉 蘭
現代文学
世の中には、どんなに願っても、どんなに努力しても、絶対に実らない恋がある……
そんなこと、能天気にしあわせに浸っている、あの二人には、一生、わからないだろう……
わたしがこの世で唯一愛した男は——妹の夫になる。
※「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「常務の愛娘の『田中さん』を探せ!」「もう一度、愛してくれないか」「政略結婚はせつない恋の予感⁉︎」「お見合いだけど、恋することからはじめよう」のネタバレを含みます。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる