70 / 102
Chap.6 元カレの赤木さん 2
④
しおりを挟む「……どうして、まだ東京にいるの?」
あたしはあからさまに顔を顰めた。
「火曜日にはいったん名古屋へ戻ったさ。そして今日、また東京に来た」
赤木さんはまったく悪びれずに言う。
「本来なら、年度始めの四月からプロジェクトがスタートするはずだったんだが、急遽、副社長が一ヶ月前倒ししたんだ。すでに、プロジェクトを指揮する社外取締役も着任してる。会議に出席していた彼をおまえも見ただろ?」
彩乃さんの遠縁で、あさひJPN銀行の御曹司である朝比奈氏のことだ。
「だから、三月は引き継ぎのために東京と名古屋が半々で、四月からはずっと東京だ」
——そんな情報はいらない。
「この前は、通話してる最中に逃げられたけど、今日は逃がさないからな」
赤木さんが射抜くようにあたしを見る。
あの頃、あんなにうれしかった彼のまっすぐな眼差しが、今のあたしには鬱陶しいだけだ。
なのに——
「……さぁ、メシ食いに行こうぜ」
赤木さんはあたしの手首を掴んで、雑踏の中を歩き出した。
——相変わらずの「俺様」だなぁ。
彼はしし座のB型だった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
痛くはない程度にきゅっと手首を掴まれ、けれども決してその手は離してくれない。
「……ねぇ、どこへ行くんですか?」
そのまま、赤木さんに引き摺られるように歩きながら、あたしは怪訝な声で訊いた。
「東京に返り咲いたら、七海とまた行きたいと思ってたんだ」
そう言って、彼があたしを連れて行ったのは……
「呑み会」と称した社内合コンで……あたしがそのあと彼に「お持ち帰り」されたお店だった。
南青山の会社近くにあるこのスペインバルは、先月の「同期会」で友佳と青山と三人で呑んだ店でもある。
——要するに「会社御用達」のお店っていうことだけれども。
あたしはふと、つき合っていた半年の間に、赤木さんと食べに行ったお店を思い浮かべた。
印象に残っているのは、福岡から東京に進出してきた博多ラーメンの店に行ったときのことだ。
彼はスープを一口すすって『こがん味ば地元ん味やなか』と吐き捨てるようにつぶやいた。
確かにそのお店はあっさり系の豚骨スープだったが、あたしにはじゅうぶん満足のできる「旨か」スープだった。
そして、彼が気に入って絶賛するのは決まって、おどろおどろしいほどこってりと「進化」した豚骨スープだったのだ。
諒くんみたいに、フードパークの豚骨ラーメンを気に入って『今度は海鮮丼を食べにフードコートへ行こう』なんて、
——絶対にありえないだろうなぁ……
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。
そんな目で見ないで。
春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。
勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。
そのくせ、キスをする時は情熱的だった。
司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。
それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。
▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。
▼全8話の短編連載
▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる