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Chap.6 元カレの赤木さん 2

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   定時になったので、秘書室のあたしたちはみんな帰途につく準備をする。

   彩乃さんは今日、副社長のお母さん——つまり、お姑さんになる人と二人っきりで「会食」らしい。
   気の毒なほど憂いを帯びた表情ではあるが「お姑さん」とサシでごはん食べるくらいなら、なんだかんだ言っても副社長とはうまくいってるんじゃないのかな?

   誓子さんは週末の葛城社長との映画デートに備えて、これから華丸百貨店へ行って、上から下まで一式コーディネートしてもらって購入するらしい。

「ねぇ、ねぇ、『清楚系お嬢さま』に見えるにはどこのブランドがいいと思う?」

   今日は一日、何回となくあたしと彩乃さんにぶつけられた質問だ。

——あなた、あたしが諒くんとのお見合いのとき『あちらの親御さんにもウケのよい、いかにも「いいところのお嬢さん御用達」で「身持ちが固そう」に見える、メタボ級の猫を被れるブランド』として、『ミス・ア◯ダがいいんじゃない?』と、おっしゃってましたよね?

   まぁ、少しでも相手によく思われたい、というのが、「恋のはじまり」の醍醐味でもあるけどね。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   エントランスで受付嬢に軽く会釈して、社屋の外に出る。いつものようにスマホのL◯NEをチェックする。

   すると——あ、諒くんから来てるっ。あたしの頬がだらしなく緩むのがわかった。

   だけど……

【 悪い。仕事が忙しくて、今週末も会えそうにない。麻疹が流行ってるが、風邪とかひいてないか?】

……いつもの「安否確認」だった。


「……今週末も、まだ、会えないんだ」
   思わず、ぽつりと独り言が漏れた。

   一般企業だって決算月だ。「お役所」の「総決算月」にあたる年度末が、超多忙になるのは仕方ない。

【了解です!こちらは元気です。諒くんこそ、身体からだに気をつけてお仕事がんばってね♪】

   心底がっかりしながらも、気を取り直して文字を連ね、【がんばれ~】とポンポンを振るくまさんのスタンプとともにタップする。

   「業務連絡」っぽかったあたしの返信は、少しは「彼氏」に送るメッセージになってきたかな?

——諒くんのこと、もう「彼氏」だと思っていいよね?

   この前キスしたとはいえ、諒くんとはまだ二回しか会っていない。

……って、今どきキスしただけで「カレカノ」なんて、おこがましいか。

   でも、「お見合い」してこうやって(会えなくても)連絡はやりとりしてるし、「上司の娘」に対して中途半端なことはしないよね?

   キスだって、お酒も入ってなくて素面しらふのときだったし、
『今度会ったときの海鮮丼のあとは、がっつりキスするからな。覚悟しとけよ。……七海』
って、諒くんは言ったもん。

——あたし、もう諒くんの「彼女」って、思ってもいいんだよね?

   諒くんに誕生日プレゼントとして買ってもらった、アメシストのネックレスをそっと握る。

   諒くんに会って、はっきりと確かめたいけれど……こんなに会えないんじゃ、それも確かめられない。

——会いたいよ、諒くん。顔だって忘れちゃうよ……


「……七海!」

   そのとき、後ろから大きな声で名前を呼ばれた。

——まさか……諒くん?

   あたしは期待を込めて振り向いた。


   だけど、そこにいたのは——赤木さんだった。

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