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Chap.5 元カレの赤木さん
⑧
しおりを挟む翌朝、あたしは白雪姫が森の小人たちと暮らすおうちのようなお部屋で目覚めた。
金曜の夜のこういうところは「繁盛」するらしく、スタイリッシュで都会的なタイプの部屋はすでに空きがなく、パステルカラー溢れるメルヘンちっくなタイプしかなかったのだ。
——まぁ、「一次会」が終わったあとも、二人だけでかなり呑んだしなぁ。
と言っても、呑んでワケがわからなくなった末の「過ち」では決してない。
「分別」と「理性」はラララ星の彼方だったことは否定できないが、あたしにはしっかり「意識」はあった。だから、合意の上の同意の行為だ。(なんだか早口言葉みたいじゃん)
しかも、昨夜はあたし史上最高に、彼に焦らされて、喘がされて、啼き叫ばされた。
——エッチって、やっぱ「上手い下手」があるんだ。
目黒先輩に「初めて」を捧げてしまった自分を心底恨んだ。きっと、必要以上に痛かったに違いない。
——しかし、のんびりはしていられない。
あたしは隣で眠る赤木さんを起こさないように、そーっとパステルピンクの掛け布団から出た。
このまますぐにでも服を着て部屋を出たかったが、男とまぐわったままのカラダで「朝帰り」するわけにはいかないので、細心の注意を払いながらバスルームへ滑り込んだ。
このときはまだ、いったん寝た彼がちょっとやそっとでは起きないことを知らなかった。
その後、シャワーを浴びてすっきりしたあたしは、また細心の注意を払いながらフロントに電話して開錠してもらって部屋を出て、円山町をあとにした。
赤木さんとはL◯NE交換をしなかった。
彼は、備え付けの分厚くて滑りの悪いゴムを使うのではなく、ちゃんと「自前」の極薄で滑りのよいものをいくつか「常備」している人だった。
だから、こんなふうに女の子をテキトーに「つまむ」人なんだと思った。
青山ほどかどうかは知らないけれども……
——別に処女じゃないし。これも、一つの「社会勉強」だ。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
週明けの月曜日、あたしは総務部の「お局さま」から、また呼び出された。
きっと、例の「呑み会」と称する「合コン」であたしが赤木さんを「独占」したことでお咎めがあるのだろう。
あたしは憂鬱な気持ちで総務のフロアへ行った。
『……あぁ、水野さん。おはよう。悪いけど、第三会議室で待っててくれない?』
——うっわー、まさか「密室」で吊るし上げ?
あたしはさらに陰鬱な気持ちになって、重ーい足取りで第三会議室へ向かった。
ノックの音が三回して、『はい』と返事をすると、あわただしくドアが開かれた。入ってくると直ちにドアは閉められ、すかさず、かちゃり、と鍵が掛けられる。
『……なして、黙って帰っとうや?』
鬼のように怖い形相の赤木さんが、そこにいた。ものすごく怒っているようだ。
『L◯NE交換ば起きてからんでよか、っち思うたけん……ばってん起きたら、おまえがおらんごつなっとうやけん、ちかっぱ焦ったやろ』
——なんで、赤木さんが?しかも、すっごい訛ってるし。
みんなで呑んでたときには、同じ博多弁でもカッコつけた言い方をしていたのに。
——あっ、ラブホ代かな?なにも置かずに黙って出てきちゃったから?それで連絡つかなくて怒ってるの?
だけど、それまでの呑み代は全部奢ってくれたよね?
『おまえ、おれん話ば聞いとうか?……七海?』
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