お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

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Chap.5 元カレの赤木さん

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   そもそも、営業企画部である赤木さんと秘書室のあたしとは、仕事上での関わりはなかった。
   だけど、エントランスを歩く姿や、社食で同僚と日替わりランチなどを食べる姿は目にしていた。

   っていうか、一八〇センチ近くの身長に目鼻立ちのはっきりしたイケメンである彼の周りでは、いつも女子社員たちが色めき立っていて、そこだけスポットライトが当たったかのように目立つのだ。
   まさしく彼は「社内のアイドル」だった。

   とはいえ、あたしは彼と話したこともなく、まーったくどんな人だか知らなかったから、興味を持つこともなかった。

   同期の友佳ともかが『赤木さん、かっこいい~!』と身をくねらせているのを見るたび「いくら外見がよくったって、中身がどんな人だかわかんないのに」と思っていた。

——あの「呑み会」の日までは……


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   ある日、総務部の「お局さま」であらせられるお方から呼び出された。

   何事かと総務部のフロアへ赴くと、
『水野さん、営業企画部との合コン——じゃなかった「呑み会」があるんだけどさ。……あなた、行かない?』
   お局さまは、とてもあたしを誘ってるとは思えない、苦虫を噛み潰したような顔で言った。

——これは、お誘いを受けてはいても、お断りしなければならないパターンよね?

『……と言っても、あなたに「拒否権」はないんだけどね?』

——はい?

『向こうはどういうわけか、「秘書室の水野さん」を「ご指名」なのよっ。いーい?絶対に来るのよ?営企があたしたちと合コンしてくれることなんて、ほとんどないんだからねっ!……わかったわねっ!?』

   営業企画部は次代の営業戦略のコンセプトを立案する部署で、社内でも「幹部候補生」が集まる部署だ。「寿退職」のために入社した女子社員が多いとされる総務部では、またとないチャンスなのだろう。

   あたしは震えながら、こくこく、と首を縦に振らざるを得なかった。


   そして、合コン——じゃなくて「呑み会」に行ってみると、個室の中では厳選されたメンバーたちがすでに着席していた。どうやら、五対五らしい。

   あたしは『遅れてすいません』と言いながら、空いている一番手前の椅子に座った。

『……よかった。水野さん、今日は来てくれないかと思ったよ』

   そう言って、近寄りがたいほど整った目鼻立ちのはっきりした顔が、人懐っこそうな笑みとともに、くしゃりと崩れていく。

   テーブルの向こうには、赤木さんが座っていた。

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