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Chap.5 元カレの赤木さん
③
しおりを挟む「……あっ、そうそう。この前、同期で呑みに行ったとき、法務部の友人が言ってたんですけど」
さらに、彩乃さんの気分を盛り上げて差し上げよう。
「島村室長のこと、なんですけど……」
すると、なぜか彩乃さんの顔が歪んだ気がした。
——あれっ、間違えた?
「なによ、なによっ。早く言いなさいよっ!」
突然言い淀んだあたしに、誓子さんが身を乗り出してせっつく。
——仕方ない。ここまで言ったからには。
「えっと……絶対に、だれにも言わないでくださいね?」
まぁ、この一言のエクスキューズが、ナイショ話をいつの間にか「周知の事実」にさせていくのだけれども……
そして、あたしは友佳から聞いた、法務部での島村室長と進藤 光彩弁護士との血も凍る、極寒地仕様のブリザード対決を洗いざらいぶちまけた。
おまけに、二人が大学時代カレカノで、その別れた経緯も。
——すみません、島村室長。
「……休憩中申し訳ありませんが、朝比奈さん、副社長室にお茶をお願いします」
ふと声がしたため、あたしたちは顔をそちらに向けた。すると……そこに島村室長が立っているではないか。
——ひいいいぃっ!? ウワサをすればなんとやら、だっ!
いつもお昼休憩のときは副社長と一緒なので、油断しきっていた。あたしは完全にテンパってしまった。やっぱり、ヒミツの話はバラすものではない。
しかし、さすがは彩乃さんである。
「は…はい」
と、若干声は上擦りながらも、ランチボックスのふたを閉めて、すくっと立ち上がった。
そして、あたしたちに目配せしたあと、島村室長について秘書室を出て行った。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「……ねぇ、七海。彩乃のこと、どう思う?」
島村室長と彩乃さんが去ったあとの空間を見ながら、誓子さんが訊いてくる。
「ど、どうって?」
あたしはおずおずと様子を伺う。
「あれは絶対になんかあったわよね?」
誓子さんが目を眇めて言う。
「えっ、島村室長とですか?」
「なんで、島村室長が出てくるのよ?」
あたしが思わず口走った言葉に、誓子が怪訝な顔をする。
「先刻、島村室長の名前を言ったとき、なんか彩乃さんの顔色が変わったから……」
誓子さんが、ああ、あれね…という顔をする。
「でも、そのあと法務部の女弁護士とのブリザード対決の話には、にこにこしてたじゃない?
島村室長自身が関わってるとは、わたしには思えないわ」
——この人、思いのほか、よく見てるなぁ。
「たぶん……副社長とのことじゃない?彩乃が『やっぱり、結婚ってね。本当に好きだと思える人とするのが、幸せになれると思うから』って言ってたことの方が気になるわ」
誓子さんが、うぅーん、と唸りながら腕を組む。
「あれだけの男だもんね。……オンナ関係よ」
——あんなに上手くいってるように見えても、実際にはわかんないもんだなぁ。
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確かすでに結納も済ませて、お互いの会社のためにももう後戻りはできないはずなのに、副社長に「オンナの影」が見えたのであれば……
——彩乃さん、つらいだろうなぁ。
「……で、七海の方はどうなのよ?」
誓子さんがちらり、とあたしを見る。
「それが、向こうの仕事が忙しすぎてこの前のデート以来会えていないんです」
知らず識らず、目を伏せてしまう。
「なにもがっつりデートしなくても、ちょっとの時間でも会えばいいじゃない?」
誓子さんがさも当然のように言う。
——だけど、父や姉の状況を見ていたら、とてもそんなワガママを言う気にはなれない。
「でも……『首輪』をはめられてるとこを見ると、うまくいってるみたいだわね」
誓子さんの視線があたしの首元に落ちる。
「それ、アメシストよね?情熱の赤と冷静の青が混ざった『紫』が、『真実の愛』を見抜く力をもたらすらしいわよ?」
——やっぱり、この人、よく見てるわ。
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