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Chap.4 初カレの目黒先輩
⑤
しおりを挟む仕方なくカウンターのハイスツールに腰かける。
——先刻、『奢るから』って言ったよね?
わたしはバーテンダーから渡されたワインリストを物色する。
ここは六本木なので(全然違う店にいるけど)キ◯ンティにでもするか。もちろん、クラシコだ。それに、イケる口だとはすっかりバレている相手なのだ。遠慮なくフルボトルのバ◯ーネ・リカーゾリをオーダーする。
EUとの関税が引き下げられて量販店では三千円もせずに手に入るようになったものだけど、さすがにお店ではいい値だなぁ。
——ふん、昔、あたしを傷つけた「慰謝料」だ。
「……悪かったな、突然。たまたまこの店に来たら緑川がいてさ。今でもおまえと連絡取ってるのか?って訊いたら、取ってるって言うからさ。無理を言って、おまえを呼んでもらったんだ」
目の前では、金髪で左耳にダイヤのピアスを輝かせた二〇歳そこそこの若いバーテンダーが、グラスの中のドライ・ジンとカンパリとベルモットのリキュールをステアしている。目黒先輩が頼んだネグローニだ。
「ななみん……なんで、おれ……あのときに、おまえの良さがわからなかったんだろうなぁ」
あたしはフルボトルから大きなチューリップグラスに注がれた真紅のバ◯ーネ・リカーゾリを一口含む。
「……なんですか?今さら」
辛口のためか赤ワインのぽってり感はさほど感じられないのだが、だからといって淡白なのかといえばそうではない。芳醇でフルーティな味わいの中にはスパイシーさも香っている……ような気がする。
——ワインの味なんてまだまだわからないからなぁ。
けれど、あたしにとっては、このワインは割とぐいぐい呑める飲み口なのは確かだ。
——一本、きっちりと空けさせていただきます。
「この歳になると、おまえみたいに心のうちをズケズケ曝け出してくれる女は滅多にいない、ってことがわかってきたんだよ」
すぐに空いたグラスに、目黒先輩がワインを注いでくれる。ちなみに彼はワインは好まない。その渋い酸味が苦手なのだ。醍醐味なのに。
あたしとのデートでイタリアンへ行っても決して呑まなかったが、サークルの呑み会でだれかが一本オーダーしたときにはつき合って呑んでいたけれど。
——ところで先輩、何気にあたしのこと、ディスってませんか?
あたしはぎろりと先輩を睨んだ。
「そういうおまえとだったら、たとえケンカになったとしても、こっちもちゃんと心を曝け出して、同じ人生を歩んでいけたんじゃないか、って思うようになった、ってことさ」
目黒先輩はマホガニー色のカウンターに頬杖をついて、ほぉーっとため息を吐いた。
「今さらながらに、惜しいことをした、って思ってるんだよ」
諒くんや青山ほどではないにしても、目黒先輩もそこそこのイケメンだ。
いや、むしろ、彼らのような研ぎ澄まされたシャープさがない分、近寄りやすく親しみやすい感じがする。
もっというと、あたしのことを大事にしてくれる——やさしそうな人に見えるのだ。
そんな「やさしそうな彼」が、あのときのあたしは好きだったのだ。
そして、それは目黒先輩も同じだった。
後輩くんが言ったような『かわいい感じの小動物系』のあたしを、好きだったのだ。
今なら——いくつかの恋を経てきた今なら……
お互い自分勝手に相手を「幻想」して、好きになった気分でいたんだということが、よく理解る。
だけど、そういうのが……そんなふうに、相手の「幻影」に恋してしまうのが……
——「初恋」だった、と思う。
「……なぁ、七海」
別れてからは「ななみん」になっていた呼び名が、甘い響きを含んで戻っていた。
「おれたち……」
じっと、真剣な目で見つめられる。
思わず心臓が、どきり、とした。
「……また、やり直さないか?」
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